紫陽花の咲く道 2-1

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紫陽花の咲く道 2-1

「はっ、はじめまして。ボクは タキザワメイ 6さいです!」 「くすっ礼儀正しくていいね。それにとても元気そうだ。こちらが君のお父さんかな?」 「あっはい。滝沢宗吾です。その節は瑞樹のアクシデントを助けて下さり、ありがとうございます。大変お世話になりました」  こういう時の宗吾さんはパリっとしていて、本当に格好いい。僕のお礼まで言ってくれるなんて、心が浮き立ってしまうよ。  シルバーグレイの品のよい男性の名は、冬郷雪也(とうごうゆきや)さん。 「こちらこそ。瑞樹くんを見ていると不思議と遠い昔を思い出してね……それでつい誘ってしまったのですよ。この薔薇が満開の季節になるといつも思いだしてしまってね」 「やはり『柊雪』は思い出深く……ご縁が深い薔薇なのですね」  そう問いかけると、彼は嬉しそうに眼を細めた。 「嬉しい事を聞いてくれるね。さぁまずは座ってランチをどうぞ。もしよかったら、後で昔話を少ししても」 「えぇぜひ、お待ちしています」  白薔薇の中庭に面したテラスでのランチは、最高だった。    シチュエーションも味も、そして宗吾さんと芽生くんと3人で食べることも!  真っ白なテーブルクロスがかけられたテーブルの真ん中には、大輪の白薔薇が一輪。 「瑞樹、いつもありがとう」 「宗吾さんこそ、いつもありがとうございます」 「じゃあお互いの日頃の奮闘に乾杯だな」 「はい!」 「カンパーイ!」 「パパ。おにいちゃん~ありがとう」  スパークリングワインの気泡が浮き立つ背の高いグラスが、白薔薇の上で軽やかな音色を奏でた。  芽生くんには長野産のリンゴジュースを注文してあげた。  すぐに美味しそうな彩りの料理が、次々と運び込まれて来る。  スモークサーモンのマリネ オレンジ風味  オニオングラタンスープ  和牛バラ肉の赤ワイン煮込み  どれも舌鼓を打つほど、絶品だった。  そして、芽生くんにも大人と同じ料理をプチサイズに盛り付けて出してくれた。どれも子供でも食べやすい味で、お肉もとても柔らかかったのでホッとした。行き届いた店の心遣いに感謝した。 「パパーボクも今日は、おとなとおなじおりょうりでうれしい!」  ふぅん……お子様ランチを頼めば喜ぶと思っていたが、芽生くんもいつまでも子供ではないんだな。あまり外食の記憶がない僕だから、また一つ勉強になった。  デザートは苺のババロアだった。甘酸っぱい果実味が口中に広がって、幸せな気持ちになる。 「お味はいかがでしたか」 「あっ、雪也さん。最高でした」 「ここに座っても?」 「もちろんです」  ちょうど座席は四人掛け。  まるで雪也さんのために用意されたかのような席だった。改めて簡単な自己紹介をした後、唐突に切り出された。 「葉山くん、君に不躾な事を聞いても?」 「えぇ」  何を聞かれるのかは、不思議と分かっていた。  なので、すぐに答えることが出来た。 「君たちは……家族なのかな」 「はい、そうです」
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