紫陽花の咲く道 4-2

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紫陽花の咲く道 4-2

「おっと、滝沢さんは見ない方がいい光景かもな」 「えっ」  向こう岸で、瑞樹は……彼よりずっと背の低い淡いピンクのスカートを雨に濡らした女の子に声を掛けられていた。  瑞樹が振り向くと、綺麗にメイクした女の子の頬が瞬時にさくらんぼのように淡い朱色に染まった。  女の子が真剣な眼差しで瑞樹に何かを告げると、困惑した表情を浮かべ……連動するように、恐縮したように、瑞樹の傘が前後に揺れた。  雨に霞む世界に、それはまるで映画のワンシーンのように、スローモーションのようにゆっくりと経過していった。  愛の告白 ~Confession of Love~  を受けたのだろうか。  暫くの沈黙の後、女の子は来た道を引き返して行った。  少し泣きそうな顔で──  瑞樹は申し訳なさそうに見送り、その後大きなため息を一つ吐いた。  そのタイミングで、長い信号がようやく青に変わった。  瑞樹は顔をすっと上げ……俺たちの方に向かって歩いてくる。  うわ、気まずいな。  透明の傘をさしているので、瑞樹の表情は傘に隠れなかった。  何かを吹っ切れたように爽やかな面持ちだった。  美しくて気立ての良い瑞樹は、どうやら話しかけやすいのか、告白されやすいみたいだ。大沼の船でも女の子から積極的に誘われていたし、これは、うかうかしていられないな。……妬いてしまうよ。  と言いつつも……毎度毎度、即答で断ってくれるのが、実はすごく嬉しい。  そろそろ買ってやりたいな。  君にバリアを張るために、薬指に指輪を贈りたい。  季節は折しも六月。  June Brideだ。      
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