紫陽花の咲く道 8-2

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紫陽花の咲く道 8-2

****  仕事が早く終わり、カメラマンの林さんとは銀座のど真ん中で別れた。  彼はこれからデートだそうだ。  さてと、俺はどうするかな。  瑞樹に連絡してみようか。それとも──  道端でスマホを取り出した時に、ふと足元を見ると、紫陽花のガクが一枚、また一枚と道端に落ちていた。  先日瑞樹が大事そうに抱えていた紫陽花を思い出して、俺は興味を持って……それを辿ってみた。  なんとなく瑞樹が近くにいるような気がする。  そんな予感──  紫陽花の道案内みたいだ。  俺を愛しい人の元に連れて行ってくれるつもりか。  驚いた事に紫陽花の行先は、先日瑞樹と指輪を買おうと誓った店の前だった。  ハッとして顔を上げると、重厚な硝子の扉を勇気をもって押している瑞樹を見つけた。  えっ……君が? ひとりで……  盛大に、にやけてしまった。  彼がここで何をしようとしているのかが分かったから。  もしかして……俺のために……俺の指輪を?  慎重な瑞樹の事だから、おおよそ下見なんだろうが、その気持ちが最高に嬉しかった。  彼が俺のために何かをしてくれるのが、行動を起こしてくれるのが、嬉しい。  貴重な行動を起こしている最中の瑞樹を、そっと見守った。  やがて……最初は気後れしていた彼も、積極的に指輪を選び出した。  とても気に入ったものが見つかったようで、生き生きとした表情になっていくのが、可愛いらしい。    もう我慢できない。  もう近くに行ってもいいか。  一緒に選んでもいいか。  紫陽花が誘う道の先には、俺のしあわせが待っていた。  一緒に選ぼう。  君とお揃いの指輪を──
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