紫陽花の咲く道 11-2

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紫陽花の咲く道 11-2

「そういえば、芽生くん、カタツムリさんはいた?」 「いなかったー、でもきっとお泊りするお寺にはいると思うんだ」 「そうだね。着いたら一緒に探そうね」 「そろそろ出るか」 「あっ最後に売店を覗いてもいいですか」 「もちろんだ」  小さな売店には、このお寺にゆかりある月と兎をモチーフにしたグッズや、紫陽花のポストカードなど、上品な品物が所狭しと並んでいた。 「誰かに土産を?」 「はい……あの、函館の母と宗吾さんのお母さんに何か買いたくて」 「えっ」 「あっそんな事したら差し出がましいでしょうか」 「とんでもない! その逆だ。すごく嬉しいよ、俺は旅に出ても面倒で、そんなことしたことなかったからな」 「それなら良かったです」  この旅では……二人のお母さんにお揃いのお土産を買うと決めていた。 「これ、どう思います?」 「あぁ鈴もついていて、いいな。うちの母さんはこういう可愛いの好きだぞ」 「では、これにします!」  月と兎と紫陽花……  3つのチャームがついたキーホルダーを選んだ。  指で摘まんで揺らすと、鈴の音が心地よかった。  しあわせの呼び鈴だ。  実はこんな風に旅先で、家族にお土産を買ってみたいと、ずっと思っていた。  僕は家庭の事情で中学の修学旅行には行けなかった。高校は広樹兄さんが旅費を出してくれたので何とか行けたが、持たせてもらった土産代の五千円は使うのが勿体なく、申し訳なくて、そのまま突っ返してしまった苦い思い出がある。  広樹兄さんは顔をしかめたが……当時の僕は、それが最善だと信じていた。  馬鹿だな。そんなことよりも、旅先の美味しい物や思い出に残る物を渡して、楽しかった旅行の思い出話を沢山すればよかったのに。  お金より大切なものがある。  今となっては後悔ばかりだが、過去には戻れない。  でも今この先は、まだ何も決まっていない。  だから、今から変えて行こう! 「広樹兄さんには地ビールがいいかなと思って。あとで買いに行くのに付き合ってくださいね」 「いい店があるから案内するよ。あーでも、あいつは呑兵衛だからな。山のように送らねば」 「いや今回は量より質で勝負です。あと月影寺の皆さんにもビールを差し入れましょう」 「なんだか楽しいな、瑞樹とこんな風に土産物談義が出来るなんて」 「えぇ、僕も同じことを思っていました」  楽しい会話を続けながら、僕たちは次の目的地に移動する。  梅雨空も  しとしとと降る雨も  全部、旅のエッセンス。    次々に咲く……紫陽花のような、僕の心。 96bf5fb3-e029-443b-b4e7-6b264e70261a    
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