紫陽花の咲く道 19-1

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紫陽花の咲く道 19-1

 風呂場で何をしているのか。  ビールを2杯飲み終わっても、瑞樹と洋くんは、未だにあがってこない。 「洋くん、大丈夫かな。風呂で倒れていないよな」  細くて色白の洋くんの事が、急に心配になってしまった。(もちろん瑞樹が第一だが) 「まったく……柄にもなく洋は、はしゃいで。すまないね。ここに友人を泊めるのも一緒に風呂に入るのも初めてだから、興奮しているのだろう」  そう言いながら、丈さんが浴室の扉をノックした。 「洋、いつまで入っている? そろそろあがらないと、また貧血を起こすぞ」 「あっ分かった。ごめん。丈、悪いが俺の着替え持ってきてくれない?」 「やれやれ」  そうだった。泥だらけのまま風呂場に直行したので着替えを持たずに入ったのだ。  ん……待てよ。それって瑞樹も同様だよな。  案の定、彼の恐縮した声も続いた。 「宗吾さん……あの、すみません。僕も同じくです。鞄から着替えを持って来てもらってもいいですか」 「あぁいいぜ」  どれどれと瑞樹の鞄を覗くと、明日の着替えしか見当たらない。  土産を買う分空けたという鞄の中には、大事そうに……あじさい寺のキーホルダーと芽生に買ってくれた絵本、瑞樹が選んだポストカードや一筆箋などが入っていた。  うーむ、これを着てしまうと、明日困るだろう。  とりあえず下着は持ったが、上着の方はどうすべきか悩んでしまった。 「どうした? 瑞樹くん、着替え持ってないのか」 「あぁ余分には入ってなくてな」 「なら洋の服を貸そう。サイズは問題ないと思うが」 「あーいや……」  洋くんといえども、男だ。  瑞樹が他の男の服を着るのは、どうも納得できないぞ。(と俺の狭い心が訴える) 「いや、俺のを貸すから大丈夫だ」 「宗吾さんのを?」 「あぁ余分に持ってきているから」 「ふぅん……準備いいな」  まるでこうなるのを見越していたかのように、実際にTシャツを余分に持っていた。しかも部屋着にするつもりだったので、俺でも大き目のゆったりサイズだ。  これは、いいな。  さっきの甘味処での話が尾を引いているのか。  思わず、ニヤリと笑ってしまった。 「なんだか楽しそうだな。それ」 「だろう、丈さんもせっかくだから自分のシャツを貸せばいいんじゃないか」 「なるほど。一緒に住み始めると、そういう楽しみを忘れてしまっていたな」  というわけで、着替えと称して、それぞれのシャツと下着を脱衣場に届けることにした。
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