紫陽花の咲く道 20-2

1/1
前へ
/1916ページ
次へ

紫陽花の咲く道 20-2

****  しんみりとした、いいムードだったのに……  いつだって爆弾を落とすのは、流さんの役目なのか。 「それにしても、さっきから君たち、なかなか良い眺めだな」 「えっ」  声の主は流さんだ。  おもむろに手を伸ばし、僕のTシャツの襟もとをグイっと引っ張り、あからさまに中を覗かれた。 「えっ……今、何を?」  胸元を押さえて絶句していると、続いて洋くんの襟もとにも手を伸ばし、同じことをした。 「りゅ、流さんっ!」 「ふーむ、どっちも、まだまだ未熟だな」  唖然としていると、洋くんがわなわなと震え、真っ赤になった。 「流さんっ! 俺はともかく瑞樹くんにそんなことするなんて、許せません!」 「わっ、そう怒んなって。俺から見たら、お前らは双子みたいだからつい揶揄って」 「もう怒りました! 今すぐ翠さんを呼んできます」 「わっ待て待て。許せって、冗談だよ」  急に流さんが青ざめる。  ん?もしかして翠さんは流さんの天敵……それとも?   するといつの間にか、後ろに翠さんが立っていた。  うわっ翠さんは神出鬼没なのか! 音もなく……現れた! 「その必要はないよ。僕はそこで一部始終見ていたから。流、悪ふざけも大概にしないと。客人に対して失礼だろう」 「うっ、兄さん……すまない」 「……謝るのは僕にじゃないだろう」 「あーすまなかったな。お詫びとして今日はこの離れで宴会しよう! 俺が全部作るからさ。君たちは大いに飲めよ!騒げよ!」  やっぱりテンションの高い人だな。  でも楽しい気分になる。  たまには羽目を外すのも必要だろう。  それに僕と洋くんには、ふたりだけの秘密の約束がある。  それは、お互いのパートナーの上半身をキスマークで埋め尽くすこと! 「おにいちゃん……ボクには『ミジュク』って、なんだかわからないけど……このお寺にはパパみたいな『ヘイタイさん』がいっぱい、いるんだねぇ」 「ヘ……ヘイタイって?」  芽生くんがいつもの調子で屈託なく笑うと、洋くんはキョトンとした表情を浮かべた。 「あっ!ちがった。『ヘ・ン・タ・イ』だ!」  ギョっ!芽生くん、今、ココでソレ言う? (……事実だけどっ) 「くくっ……くすくす。あはは、子供って本当に奇想天外で面白いことを言うんだね」  洋くんが一番楽しそうに笑ってくれた。  肩を揺らして涙まで滲ませて。  ツボに嵌まったのかな。  まぁ……うん、よしとしようか。  宗吾さんよりもヘンタイな流さんには、要注意だけど。    
/1916ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7996人が本棚に入れています
本棚に追加