紫陽花の咲く道 21-1

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紫陽花の咲く道 21-1

 瑞樹と洋くんが何か悪巧みをしている事には、薄々気づいていた。  そもそも瑞樹はいつも顔に出過ぎで、考えている事がバレバレなんだよ。  まぁそこが彼特有の可愛い所でもあるのだが。  洋くんの方は、大人な雰囲気の丈さんと二人の時は、ふざけたりしなさそうだ。  ともかく二人の可愛い悪戯を甘んじて受けようと、ワクワクしていた。  それにしても、さっきは焦ったな。  流の奴、俺の瑞樹の乳首を覗き見るとは、許せないぞ。  瑞樹の慎ましいアソコは俺だけのものだ! 「同感ですね、まったく流兄さんは」 「え? 今、俺、口に出していたか」 「いえ、でも……恐らく考えている事は同じかと」 「参ったな」  丈さんと顔を見合わせ、苦笑してしまった。 「お二人さん、さっきは悪かったな。これ口直しに食べろ」 「おおっ揚げたてか」  流が出してくれた海老の天ぷらを口にすると、衣がふわっと軽くサクッとして美味しかった。 「うーん、この天ぷらに免じて許すか」 「丈さんも機嫌直せよ」 「ふっ……結局いつもそのパターンなのだ。兄さんは私がムッとしていると、こうやって食べ物で釣るから、敵わない」 「なるほど、でもそういう関係っていいな」  実は俺にも5歳年上の兄がいるが、この寺のよう仲睦まじい兄弟関係ではない。ひょっとして、もう何年も喋ってないんじゃないか。  兄は裁判官という堅苦しい職業に就いており全国を転勤し続けているので会うことが少ないし、そもそも異端児の俺には近づきたくないのだろう。ずっと毛嫌いされていた。 「いや……実は私はずっと兄たちと上手くいっていなかったので最近だよ。洋を連れてこの月影寺に帰ってきてから関係がガラリと変わった。何事も分からないものだな。何かをきっかけにひっくり返る事もある」 「そうなのか。だが羨ましいよ」  しみじみと日本酒を飲んでいると、丈さんが静かに注いでくれた。 「宗吾さんも、結構飲める方みたいだな」 「あぁ普段は日本酒はあまり飲まないが、この酒はいい。水のようにサラサラと喉越しがいいな。ちょっとラベル見せてくれ」 「あぁ、これは兄さんと同じ名前で」  ラベルには『翠』と書かれており、裏を返せば製造元は京都の酒造だった。 「へぇ、翠さんの雰囲気そのものだな」 「あぁ」  ふと丈さんの左手にしっとりと輝くシルバーの指輪が気になった。 「その指輪って、もちろん洋くんとのだよな?」 「あぁそうだ。洋の亡くなった両親の形見だ」 「そういうのもいいな。ところで君たちは結婚式みたいなのを挙げて交換したのか」 「あぁしたよ……一昨年の七夕の日に」 「へぇ……どんな式を。どこで? どんな風に?」  身を乗り出して聞くと、怪訝な顔をされてしまった。 「少し落ち着け。もしかして……結婚式に興味があるのか。瑞樹くんと考えているのか」 「あぁ実は明日、この寺の庭先で瑞樹に指輪を渡そうと思って準備してきた。いやその……戸籍上どうこうではないが、もう俺たち、そういうつもりなんだ」 「なるほど、それならぜひ協力したい」 「ふぅん、それ僕もしたいな」 「わっ翠さん、いつの間に」 「俺ものるぜ」 「流まで!」  そんな話をしていると、いつの間にか翠さんと流さんも傍で聞いていて、瑞樹にサプライズ企画をしようと盛り上がった。 「よし! 決まりだな」 「あぁよろしく頼む。いい思い出になるよ」  こそこそ話していると、少しほろ酔いの瑞樹と洋くんが上機嫌な顔で酒を注ぎにやってきた。  さっきから何度も俺たちに熱心に勧めるとは、やはり酔わせて何かするつもりだな。  よしよし、ご希望通り酒に呑まれてやろうと、ぐいっと景気よく飲み干した。  結構、回ってきたな。 「丈さんもいい感じか」 「あぁもう一息だ」
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