紫陽花の咲く道 21-2

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紫陽花の咲く道 21-2

**** 「オヤブン~」 「なんだチビスケ」  パパとおにいちゃんとあそびにきたお寺には、いろんな人がいた。  ボクのおきにいりはちゅうがくせいのおにいさん、つまりオヤブンだ。  ほんとは『ナギ』っておなまえみたいだけど、だんぜんオヤブンが、かっこいいよ! 「あのね、オヤブンのおとうさんは、あのきものをきているひとだよね? おかお、にてるもん」 「あーそうそう。ひとりだけ浴衣を着せられている人」 「じゃあ……オヤブンのおかあさんはどこ?」 「はっ? 何だ急に」  このお寺にはおんなの人がだれもいないから、ふしぎだった。 「あーオレの母さんは、今は遠くにいるよ」 「とおく? おそらのほし?」 「違う違う! ちゃんと生きてるよ。でも、とっくの昔に離婚したから別々に暮らしている。って幼稚園児に言ってもわからないか」  『りこん』  いつもおばーちゃんやパパが話すことばだ。  じゃあオヤブンもボクとおなじなんだ。 「ねぇねぇ……あのね、いつから『りこん』してるの?」 「ん? オレが小さい時だよ。そうだな、今のチビスケ位の時だったよ」 「そうなんだ! やっぱりおにーちゃんはボクのオヤブンだ!」 「うーん、そのオヤブンっていうのはよせ。そうだな『アニキ』くらいがいいんじゃねーか?」 「ほんと? じゃあこれからは『アニキ』ってよんでもいい?」 「もちろん!オレでよかったらニーサンがわりになってやるよ」 「わぁ!」  パパもミズキおにいちゃんもダイスキ!  だけどね……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ……ようちえんで、ぼくだけちがうのが、さみしかったんだもん。  ごめんなさい。  でもアニキも……おなじなんだ。ボクだけじゃないんだ。  おかあさんがいきているのに、いっしょにくらしていないの。  だいじょうぶなんだ、これで!  そうおもうと、ますます、アニキのことがすきになった。 「アニキー、きょうはいっしょにねてもいい?」 「えっマジ? オネショすんなよ」 「むっ、ヘイキだもん! もう6さいだよ!」 「まだ6歳だろ?くくっ」 **** 「じゃあな」 「はい。翠さん、流さん、本当にご馳走様でした」 「いえいえ。丈も宗吾さんも泥酔しちゃったね。あのままソファで寝てしまいそうだ。ここはあまりにもお酒臭いから、芽生くんは母屋で預かるよ。薙に懐いて離れないし。だから洋くんと瑞樹くんは水入らずの時をゆっくり過ごしてね」 「ありがとうございます! 何から何まで」    浴衣姿のたおやかな翠さん。  さっきから浴衣が着崩れそうになると流さんがすっ飛んできて、さっと直すもんだから面白いし微笑ましかった。  僕と洋くんに、こんなぶかぶかなシャツを着せる彼らとは、大違いだ。  流さんと翠さんの姿が見えなくなったのを見計らって、僕と洋くんは顔を見合わせた。 「さてと、いよいよ……待ち望んだ時間の到来だね!」 「よしっ、がんばろう!」  ハイタッチしながら、妖しく微笑んだ!   あとがき (不要な方はスルーで) **** こんにちは、志生帆海です。 いつも読んでくださり、応援をありがとうございます。 最近『重なる月』の登場人物が沢山登場しています。読まれていない方には、少々分かりにくい内容になっていて申し訳ありません。瑞樹と宗吾さんと芽生くん……いつものメンバー以外の人と絡ませたくなってしまいました。あと今後の物語への絡みもありますので、外せないシーンでした。 あとおそらく数話で、北鎌倉の話は終わりますので、お付き合いいただけたら嬉しいです。
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