紫陽花の咲く道 23-1

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紫陽花の咲く道 23-1

 実に不思議な夢を見た。  夢の中で俺は上半身裸で、海中を泳いでいた。 「宗吾さん――」  甘く呼ばれたので振り返ると、可愛い人魚が口をパクパクさせて、俺の肌に吸い付いてきた。 「わ、くすぐったい!よせ!」 「駄目ですよ。じっとしていて下さいね」  チュパッ!  リップ音が、水の中でも鳴り響く。  音と共に、ピンク色の花やサクランボが周囲に弾け出る。  何だこれ? 何かのCMみたいに面白い夢だな。 「ふふっ、もう少しつけますね」  甘く微笑む人魚の顔は……俺の恋人、瑞樹によく似ていた。  え? 瑞樹? まさか胸……ないよな?  慌てて人魚の胸を見ると、俺と同じ平らだったのでホッとした。  俺は瑞樹の平らな胸に欲情するからさ。  瑞樹に似た人魚の胸元をよく見ると、沢山の赤い痕が散らされていた。  サクランボのように淡く色づいた乳首は尖っており、色めいていた。  ううう、艶めかしいな。  パクっと食べてしまいたい……欲求にまみれてしまう。 「あっこれって――」  そこで「うわっ!」と、飛び起きた。  やっぱり夢か。はぁ、すいぶんリアルな夢だったな。  昨日は彼にあまり触れられなかったので、もしかして欲求不満なのか。  ん……なんだか嫌な予感。  下半身に生温い湿りを感じて、流石に動揺した。  やばい……夢精した。旅先でとか、ありえん。  慌ててシャワールームに飛び込んだ。  通り過ぎる時に寝室をちらっと見ると、瑞樹と洋くんは手を繋いで丸まって眠っていた。  お互いに受け入れる方だから心配は微塵もないのだが、洋くんは色っぽい子だからか瑞樹もいつもよりも色香が増している気がして……股間がまずいことになった。  本当にヤバイ!  はぁ芽生が一緒でなくてよかった。  こんな情けない親の姿……到底見せられない!  脱衣室で、着ていた部屋着を脱ぎ捨て、ふと鏡を見たら! 「おお? 何だか凄いことになっているぞ」  思わず声に出してしまった。  胸元に無数のキスマークがついている!  なるほど、これか! 昨日瑞樹と洋くんが企んでいたことって……なんだよ、最高じゃないか。  彼の独占欲を目で見て、肌で感じて……  いつも俺は瑞樹に痕をつけてしまうが、瑞樹から俺にというパターンはなかったので、感激してしまった。  俺も愛されているんだな。 それは分かっていたが改めてこうやって示されると喜びがじわじわと込み上げてくる。  一体いくつのキスマークをつけてもらったのか。せっかくだから数えてみよう。  シャワーを浴びながら数え出すと、バスルームのドアが急に開いた。 「あっ悪い、シャワー中だったのか」 「気にすんなって」 「おはよう。宗吾さん」 「あぁおはよう!」  丈さんだった。  なんだか彼も焦った様子だけど、まさかな。  彼の下半身をじろっと見ると、困惑した様子になった。  俺と同じような状態なら、最高に面白い。  そうだ、俺の胸元のキスマークを自慢したい!  子供じみていると思いながらもシャワーの水を止め、バスタオルで下半身を隠し、彼の前に歩み出た。 「丈さん、これ見てくれよ」  彼はじっと俺の胸元を見て、ハッとした。 「いいだろ?」 「……すごい独占欲だな。羨ましい……私もシャワーを浴びてもいいか」    少しは悔しそうな顔したか。   「あぁもちろん、って、ここ丈さんの家だし。俺は髭剃るから洗面所を借りるぞ」 「あぁどうぞ」  男同士で、遠慮することはない。  彼も躊躇わずに、部屋着を脱ぎ捨てた。  すると……鏡越しにその様子を見て仰天した。彼の胸元にも沢山のキスマークが散らされている。 「おい! 丈さんもすごいな」 「ん? 何がだ?」 「早く鏡で胸元を見てみろよ」 「ん?」  丈さんは鏡を見て、流石に動揺していた。 「これ。なんだ?」 「昨日、瑞樹と洋くんで何か企んでいるのは知っていたが、こんな幸せな贈り物もらえるとはな」 「驚いた。洋がしてくれるなんて」 「分かる。俺も瑞樹がこんな事してくれるとは思わなくて、感激してた」  丈さんと俺は、相手を愛し過ぎてしまう性質だから、キスマークも毎度のように付けたがって、若干呆れられてしまった節もある。だから本当に嬉しい贈り物だった。  愛情は一方通行だと、寂しくなるからな。  相思相愛。    互いに慕い合い、愛し合っていること。  両想い──いい言葉だ。  キスマークも付け合ってさ。 「しかし派手につけてくれたな。一体、何ヵ所あるのか」  丈さんが呟いたので、つい張り合いたくなってしまった。 「俺の方が多いだろう」 「いや、私の方が多い」 「ん? じゃあ数えてみるか」 「あぁ」  何がどうなってか、お互いのキスマークを数えだした。 「1、2、3……10」 「1、2、3……10」 「丈さんも10かな? なんだ引き分けか」 「いや、それは、どうだろう」  丈さんは不敵な笑みを浮かべ、自分の襟足部分を指さした。  そこには首筋部分に赤い痕が一つあった。 「これで11個目だ。ふっ、これで私の勝ちだな」  不敵に笑われて、俺も焦って自分の首筋を鏡に映してみたが、痕はなかった。  いやいや……うん、分かるよ。  遠慮深い慎ましい瑞樹のことだから、見える部分には付けられなかったのだろう。  だが……今日は付けて欲しかった!  そう思うと、躰が自然に動いていた。 「瑞樹、お願がある!」  寝室に飛び込むと、何故か二人が手を取り合って震えていた。 「そっ宗吾さん……その姿っ、困ります」  お決まりのように、はらりとバスタオルが落ちる。 「うっ……うわぁああー」 「ああぁぁ」  瑞樹と洋くんは、慌てて布団の中に潜ってしまった。
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