紫陽花の咲く道 25-1

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紫陽花の咲く道 25-1

「瑞樹、この道はまるで『バージンロード』みたいだな」 「あっ、実は僕も、さっきからそう思っていました」  黒の紋付き羽織袴姿の宗吾さんは、見惚れてしまう程に凛々しかったので、そんな台詞もしっくりときていた。  もぅっ、朝とのギャップが激しいよ! 「バージンロードって、確か『花嫁の人生』そのものを表し、神聖な道は花嫁の過去・現在・未来を象徴すると言われているんだったよな」 「……随分詳しいですね」 「まぁその、婚約指輪の広告を担当した時、いろいろ学んでね」  なるほど、と納得し、少しホッとした。 「最初の一歩は瑞樹の生まれた日だ。君が大沼で家族に愛されて育った日々、弟が生まれた日。そして函館の家で懸命に過ごした時間……何だか君の過去を、俺も一緒に歩いている気分だ。皆、瑞樹を大切に支えてくれたな。だから瑞樹は俺と今こうしていられるのだ」 「はい……その通りです」  過去の悲しい思い出も辛かったことも、もう悔やんだりしない。  ただ宗吾さんと一緒に受け止めていく。 「そして、ここからが現在だ。今日……この日だ。さぁ俺に掴まって」 「はい」 「君を幸せにする。俺を幸せにしてくれ。俺たち幸せになろう!」 「はい!」  宗吾さんの言葉はパワフルだ!  宗吾さんと腕を組みながら進んでいくと茶室が見え、中から拍手が聴こえた。  いつの間にか翠さん、流さん、丈さん、洋くん、薙くんが、優しい眼差しで見守ってくれていた。 「パパぁ~お兄ちゃんっ」 「あっ芽生くん、おいでっ……僕たちの間に!」  流さんに促されて茶室から飛び出してきたのは、芽生くんだった。  芽生くんは、群青色の可愛い着物を着せてもらっていた。 「驚きました! 芽生くんまで可愛い着物姿になっていて……」 「俺たち兄弟の子供時代の着物だが、可愛いだろう。さぁ三人で式を続けてくれ。ここで見守っているよ」 「はい」  僕と宗吾さんは紫陽花に囲まれた東屋の中で、互いに向かい合った。  僕たちの真ん中には、光のように芽生くんが笑っている。 「瑞樹、この先は未来だ、その手前……ここで愛を誓いたい。さぁ指を出してくれ」  宗吾さんが僕の指に、指輪をはめてくれた。  僕たちが銀座で一緒に選んだ、水の流れのような流動的なデザインの指輪だ。   「あの……僕からも贈ります」 「あぁ頼む」  僕も、宗吾さんの逞しく大きな手……その指先に、指輪をそっとはめた。 「嬉しいよ。瑞樹、改めて今日からよろしくな。君は俺の永遠のパートナーだ。ずっと側にいてくれ」 「嬉しいです。宗吾さんは僕のパートナーです。だから、ずっと一緒にいます。何があっても」
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