紫陽花の咲く道 26-1

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紫陽花の咲く道 26-1

「さぁ、お抹茶を点てるから中へどうぞ」 「あっはい、ありがとうございます」 「豪華な食事とはいかないが、皆で美味しい和菓子でも」  流さんに誘われて、茶室に入った。  出された和菓子は、紫陽花を模した透明感のある素晴らしい物だった。 「わぁ~きれいだね。おにいちゃん」 「本当に綺麗だね。雨を映したようで……こんなにも瑞々しく花を模した和菓子は見たことないです」 「気に入ったかい? 近くの和菓子屋の季節限定品なんだ。今日という日に相応しいだろう」 「はいっ、本当に!」  淡い紫色の寒天のような小さなキューブで紫陽花を表現しており、光に透けてキラキラと輝く様子は、まるで宝石のようだ。 「瑞樹、これは見た目だけじゃなくて、中も美味しいぞ。上品な甘さが……まるで君のようだ」 「そっ宗吾さん、言葉を慎んでくださいよぉ……もうっ」 「ははっ、すまん」  まったく相変わらず宗吾さんらしい発言で、耳まで赤くなってしまうよ。  上生菓子の中には、たっぷりの白あんが入っていて、あんの甘さと抹茶のほろ苦さが絶妙で、心に染み渡る味わいだった。 「瑞樹くん、改めておめでとう。俺の着物、とても似合っているよ」 「洋くん、これ……貸してくれてありがとう」 「いや、誰かの役に立つ事をこの着物は望んでいるから……本望なんだよ」 「そうなの?」 「俺まで幸せな気持ちになったよ」  洋くんは、美しい顔を上気させ、少し興奮しているようだった。 「ねぇ……宗吾さんって素敵だね、ドキっとしたよ」 「えっ!」  洋くんが色っぽい顔で言うから、焦ってしまった。  丈さんがジロっとこっちを見ているし、際どいことを言われて……冷や冷やしちゃうな。 「宗吾さんのどこに?」(宗吾さんが最高に素敵なのは認めるけれども、具体的に知りたいな。 ん?これってノロケ? それとも嫉妬?) 「さっきの宣言の台詞にぐっときたよ。『俺を幸せにしてくれ』って素敵だった」 「あっうん、宗吾さんらしい一言だなって思ったよ」 「幸せって一方通行じゃ駄目なんだな。お互いが相手を幸せにしてあげたいと思うことを忘れないでいたいと思ったよ」  洋くんと丈さんのなれそめは聞いたことがないが、僕たちよりずっと長い年月を共に過ごしているはずだ。  そんな洋くんから褒めてもらって、僕はやっぱり幸せだと思った。    宗吾さんという人は、幸せに貪欲だ。   僕は幸せに臆病だから、ふたりはちょうどいいバランスなのかもしれない。  この先も……足りない部分を補いあっていく関係でいたい。  だって、人は完璧じゃないから……    得手不得手があって、いろんな性格がある。  違う者同士が、人生を共に歩んでいくのだ。  互いが互いを幸せにしてあげたい気持ちを、この先も大切に持ち続けていきたい。  水が流れていくように、自然に……
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