紫陽花の咲く道 26-2

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紫陽花の咲く道 26-2

「瑞樹くん、改めておめでとう。その指輪とても素敵だね。君達らしいデザインだ」 「ありがとう。洋くんのも綺麗だね」 「ありがとう。これは……俺の母の形見なんだ」 「そうなんだ。じゃあ……想いを受け継いでいくんだね」 「あぁ、丈と一緒に」  洋くんの指輪、僕の指輪……  ふたつの指輪を重ねてみた。 「何だか不思議な気持ちになるね」 「本当に」  まるで、いつか読んだおとぎ話にあった『解けない魔法』のようだ。  この指輪をつけていれば、いつだって宗吾さんを近くに感じられる。  僕を守ってくれる。 「おいおい、いつまでも二人でいちゃつくなよ」 「宗吾さんってば、まさか洋くんにまで」 「ははっ洋くんは、たまに男らしい面を垣間見せるから、心配になるぞ」 「えっ、そうですか」  洋くんは宗吾さんの言葉に、気を良くしたらしい。  分かる──  受け入れる側だとしても、やはり僕たちは男なので、そう言われるのは悪い気はしない。 「洋、そろそろこっちに来い」 「あっ丈」  洋くんは心得ているようで、呼ばれるとさり気なく僕の元を離れ、丈さんの傍らに歩み寄った。  それから互いの指輪を擦り合わせるような動作をして、微笑み合っていた。  その微笑みは、花のように……目を見張る程に美しかった。  あぁそうだ。  この着物に描かれているオーニソガラムの花だ。  洋くんにぴったりの花を見つけた!  そういえば以前、オーニソガラムの花について学んだことがあった。    『オーニソガラム』とは学名で、英名の『ベツレヘムの星(Star of Bethlehem)』の名前の方が好まれている。  ベツレヘムで生まれたイエス・キリストの誕生にちなんで名付けられた花名と言われていて、真白な6枚の花弁が楚々として美しい。     花言葉は確か…… 「芽生くん、あの花の図鑑持っているかな」 「うん、もちろん」  芽生くんとパラパラと図鑑を眺めていると、洋くんが不思議そうに覗き込んできた。 「瑞樹くん、一体何を調べているの?」 「あのこの着物の花の事を」 「あぁ、オーニソガラム……Star of Bethlehemだね」 「そうだよ、知っていたの?」 「知っているも何も……俺の誕生花だから」 「そうなの? 驚いた。本当に洋くんにぴったりだ」  花言葉は……潔白、純粋、無垢、才能。  洋くんらしい言葉ばかり並んでいる。  しかもスターオブベツレヘムのフラワーエッセンスには、痛みや悲しみを和らげ癒しをもたらす効果があると書いてある。  僕が洋くんという存在自体に癒される理由が、少し分かったような気がした。  ショックやトラウマが残ってしまい消えない人に……古傷を癒してくれるエッセンスか。 「洋くんと僕は出逢うべくして出逢ったんだ。やっぱり──」  求めていた答を、ようやく見つけた。  感極まって……洋くんに抱きついてしまった。 「わっ、瑞樹くんどうしたの?」 「洋くん、もう一度改めてお礼を言いたいんだ。あの時……軽井沢に来てくれて……僕を暗黒から救ってくれてありがとう」 「瑞樹くん……もう、いいんだよ。そんなこといちいち言わなくても。もう忘れていいよ。全部吐き出せたから……君は今日までよく頑張ったよ」  洋くんは優しく僕を抱きしめて、何度も背中を擦ってくれた。 「もう大丈夫。皆ついているし、君は今を楽しめるようになっている」 「洋くんと出逢えてよかった」 「ふふっ俺もだよ。さぁ宗吾さんが待ってるよ」 「あっ」 「瑞樹、泣くなら俺の胸にしろ」 「ふっ……」  笑おうと思ったのに、やっぱりポロポロと涙が零れてしまった。 「嬉しくて……嬉しくて」 「あぁそうだな」  宗吾さんの広い胸に抱かれると、どこまでも気持ちが落ち着いてきた。  紫陽花の咲く道の先には……何があったか。  今、この瞬間があった。 『紫陽花の咲く道』 了   補足(不要な方はスルー) **** 『紫陽花の咲く道』は本日でおしまいです。 梅雨時の鎌倉はいかがでしたか。 明日からはまた日常に戻ります。 オーニソガラム、ぜひ検索してみて下さいね。 とても美しい花です!    
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