家族の七夕 2-2

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家族の七夕 2-2

「あっ、あの、今日はずっと人混みにいたので汚れていますから……まだ……駄目ですよ」 「んーいつならいい?」 「……お風呂に入ってから」 「そうかぁ、じゃあ早く入って来い」 「くすっ、そうしますね」 「夕食もちゃんと食べるんだぞ。俺はもう芽生と食べたが、晩酌に付き合うからな、その時には愚痴もしっかり吐き出すんだぞ」 「はい、ありがとうございます!」  なんだか至れり尽くせりだな。  以前だったら仕事で辛い事があっても、ひとりで踏ん張っていた。  商社勤務の一馬の方が遥かにハードな仕事だったから、愚痴を言えるような雰囲気でもなく、一馬の愚痴は聞いても、僕の愚痴なんて言えなかったのに。  一馬が去ってからも、毎日、生きていると色々あった。  いい日もあれば悪い日もあった。  晴れたり曇ったり、雨模様だったり……  人の気分は、天気のようにコロコロ変わるから大変だ。  でも家に帰ってきても、本音で愚痴を言えるような友人も作ってこなかった僕は、いつも孤独だった。  湯船に浸かり、それから汚れた体をボディソープで清めていくと、今日1日のモヤモヤも流れて行く心地だった。  最後の仕上げは……宗吾さんにしてもらおう。  躰をざっと拭いて脱衣場に出ると、宗吾さんがちょうど入って来たので、思わず腰にタオルをサッと巻いてしまった。  脱衣場の電気は蛍光灯だから、くっきりはっきり見えて恥ずかしい! 「お、隠すなよ。でも、いいタイミングだったな」 「もうっ」  宗吾さんは悪びれないで、僕を遠慮なく抱きしめてくる。 「よしよし、頑張ったな。偉かったぞ」 「そんな子供みたいに扱わないで下さい……」 「瑞樹は甘え下手だから、これ位強引でちょうどいいだろう?」  頭を撫でられ、その後、顎をクイっと持ち上げられて、唇をぴったり重ねられた。 「んっ……ふっ」    宗吾さんの呼吸と温もりを一気に感じると、躰が脱力してしまう。 「どうだ? 栄養、渡ったか」 「はい、元気になります」 「はぁ……可愛い、参ったな……」  宗吾さんは独り言のように、苦し気に呟く。 「このままもっと触れていたいが……まずは夕食だ」  僕の方も名残惜しい気持ちを感じていた。  触れ合いたい情動をセーブし、僕を気遣ってくれる宗吾さんの優しさが身に沁みた。  今宵は折しも七夕だ。  恋人同士が愛を語るにふさわしい夜。  今、宙を見上げれば……きっと ミルキーウェイ(天の川)が降りているのだろう。  都会では残念ながら肉眼で見えないが、確実に僕の心には降りてきている。  宗吾さんへの深い愛情が増してくる。   あとがき (不要な方はスルーで対応ください) **** 七夕の話が終わりません~あと2話続きます…。 実は月影寺での指輪交換で第二部クライマックスのような気分になってしまったので、少し箸休め的なお話になっております。 彼らの日常の一コマなので単調かもしれませんが、お付き合いいただけたら嬉しいです♡
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