箱庭の外 2-1

1/1
前へ
/1917ページ
次へ

箱庭の外 2-1

 月曜日、出社してすぐリーダーの所に行った。  宗吾さんに背中を押してもらえたので、会社の自己啓発制度に初めて申し出ることが出来た。 「葉山がフラワーセラピストの資格か。へぇいいんじゃないか。早速、人事課に打診してみるよ」 「ありがとうございます! ぜひお願いします」  そして後日、リーダーから嬉しい返事をもらえた。 「葉山、先日の話だが、許可が下りたぞ。君のような癒しのフラワーアーティストには必要不可欠な知識だと思うってさ。良かったな。早速手配したから、しっかり学んで来い」 「嬉しいです! ありがとうございます」 「あぁ頑張って来い」  その晩は平日だったが、宗吾さんとビールを多めに飲んで喜びを分かち合った。 「宗吾さんのお陰です」 「いや、瑞樹の日頃の頑張りが認められた。良かったな。それでいつから通う?」 「あ……それがですね」 「ん、何か不都合でも?」 「短期集中なので……」 「あっ、もしかして金曜日の夜とか休日なのかー」 「……そうなんです。すみません。僕が受ける講習は金曜日の夜と日曜日の午前中と指定されて……その、夜間休日コースでした」  金曜日の夜は、宗吾さんに抱いてもらう貴重な時間なのに。  日曜日の朝は、家族でゆっくり過ごす時間なのに。  研修を会社の経費で受けさせてもらえるのは嬉しいが、スケジュールまでは希望を出せなかった。    どうしよう……嬉しいのに、何だか少し寂しいな。 「こら、そんな顔すんな」 「ですが」 「君にとって、せっかくのチャンスだろう」 「はい……」 「ならもっと喜べ。俺は君を縛るつもりはないんだ。そりゃ……寂しいが、瑞樹のことだから、ちゃんと埋め合わせしてくれるよな?」 「うっ埋め合わせですか」 「そう、いいだろう?」 「あっ……はい、もちろんです」 「そうかそうか。嬉しいよ。期待している」  宗吾さんは、いつも優しい。大らかな気持ちを持っている。  そう言ってもらえて、ホッとした。  一度に2つの幸せを手に入れるのが怖くて臆病になってしまう僕を、明るい気持ちへと誘ってくれる。  いつだって、いつも──   「あっ、洗濯終わりましたね。僕、干してきます」 「ありがとう。しかし夜干すのっていいな。思いつかなかったよ」 「朝は忙しいですからね。お互いに」 「あぁ、じゃあ俺は食器を下げて片付けてくるから任せていいか」 「はい!」  洗面所に行く途中に、子供部屋を覗くと、芽生くんが机に向かって何かしていた。 「芽生くん、まだ寝ないの?」 「うん……あのね、もう少しおえかきしたくて」 「いいよ。あっまたクローバーを描いているの?」 「あのね、色がうまれるのが、おもしろくて」 「うん?」 「今までだったら、このみどり色だけでかいていたんだけどね。青と黄色でまぜると、もっときれいな色になるんだね」 「あぁそうか、この前公園で、教えてもらったんだね」 「そう!」  芽生くんがスケッチブックを広げて見せてくれた。 「これはねぇ、昨日かいたんだよ」  わぁ、一面のクローバー畑だ。 「いろんなみどり色があるでしょう」 「うん、本当だ。濃かったり薄かったりして、とても綺麗だね」 「これはね……ボクだけの色なんだよ」 「本当に素敵だよ」  芽生くんが瞳をキラキラと輝かせている。  小さな子供の吸収力、好奇心っていいな。  僕は芽生くんからパワーを分けてもらっている。 「じゃあ、洗濯を干してくるね」 「おにいちゃん、おてつだいするよ」 「大丈夫だよ。あとでまた覗くね」 「うん!」
/1917ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7998人が本棚に入れています
本棚に追加