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箱庭の外 3-2
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日曜日の午前のスクールで
フラワーアレンジメントを完成させると、講師の先生に突然拍手された。
いつから見られていたのかな。恥ずかしい……
「あぁ、すごく癒されたわ。あなたの生み出すアレンジメントはヒーリング効果が凄いわ。呑み込みも早いし、正直…葉山さんはもう師範レベルよ」
「え、そんな」
「天性のセンスもあるけど、きっとあなたの今までの体験や経験が存分に活かされているのね」
するどい所をついてくる。
過ぎ去った辛い過去も思い出も、花に活かせるのなら、それもいい。
感慨深い──
大切な人を一度に失った経験。
自分を殺して生きた時間。
自尊心を無理矢理に奪われそうになったあの日。
僕は数知れずの辛い体験を乗り越えてきた。
そんな僕自身を、もっと労りたいと思った。
「ありがとうございます」
「ねぇ葉山さん、もしこの後少し時間があったら、手伝ってもらえないかしら」
「はい? 何でしょうか」
「実はスクールでは、箱庭カウンセリングもやっていて」
「箱庭?」
「知らない? 砂が敷き詰められた箱の中に、動物・人間などの生物や、家や家具のような人工物、そして自然の木々や果物を置いて、心に沸くイメージのまま、心理世界を創造していくのよ」
「知りませんでした」
聞けば……幼い頃の人形遊びと似ているようだ。
僕に依頼されたのは、ある女性が作った箱庭を見て、彼女に今必要な癒やしのアレンジメント作成するという内容だった。これも課題なのかな?
「これなのよ。もしかして……あなたなら、彼女の心にしっかり寄り添えるかもと思って」
「あっ」
女性の作った箱庭を見せてもらうと、なんとも言えない寂しい気持ちになった。
その箱庭の片隅にはベビーベッドがぽつんと置いてあった。
だが、そこには赤ちゃんは眠っていない。
どこに行ったの?
すぐ横に窓枠が立てかけてあり、その先には暗黒の夜空が広がっていた。
その中に、小さな赤ちゃんの人形が転がっていた。おそらく……彼女は赤ちゃんを亡くした経験があるのだろう。もしかしたらお腹の中で、この世に生まれる前だったのかもしれない。
深い悲しみと喪失感に包まれた箱庭だった。
僕の手は、悲しみに呼応するように自然に動き出した。
僕にも分かる……小さくて愛しいものを失う喪失感。陽だまりのような希望が、突然消えて真っ暗になる瞬間があることを知っている。
僕は、空にかかる虹を想像して、アレンジメントを作った。
バラやスプレーカーネーション、ブルースターにグリーン……
数種類の薔薇とカーネーションをメインに虹の7色を寄せ集め、フェミニンでスイートな雰囲気に仕上げた。特に星型の青いブルースターは、幸せを運んでくれそうなので全体に散らした。
お空の星になった赤ちゃんにも、幸せを届けたい。
僕が、両親や夏樹に届けたいように。
残された者の幸せが、先に逝った魂を癒す──
「まぁ素敵ね、しっとりとした優しい希望が滲み出て来るわ」
「だといいのですが……テーマは虹にしました。ベビーベッドから空の赤ちゃんの所まで、虹の架け橋を」
「葉山さん、流石だわ。もう教えることがない程よ」
女性と直接会う事はなかったが、とても感激して、目の前が明るくなったと感謝していたと教えてもらった。
「ありがとうございます。少しはお役に立てたのなら嬉しいです」
「嬉しそうに抱えて帰ったわ、彼女……前向きになれるといいわね」
「はい。あっ時間が……では僕もこれで」
「お疲れ様! 」
誰かの癒しになったのなら嬉しい。
明るい気持ちでビルから出て、宗吾さんと芽生くんと待ち合わせをしている恵比寿のホテルへと向かった。
時計を見たらギリギリだ。 急がないと!
するとスクールのビルからホテルに向かう遊歩道に、僕が作ったアレンジメントを抱えた女性が立っていた。
あ……あの女性だったのか。30代後半くらいで、想像より年上の感じだった。
彼女は濃紺のスーツ姿の男性と向き合い、深刻そうに話してた。
お互いの指に結婚指輪がキラリと光っているので、相手はおそらく旦那さんだろう。背を向けているので顔は良く見えないが。
でも何だか雰囲気があまりよくないので、思わず立ち止まって様子を見守ってしまった。
すると……!
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