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箱庭の外 4-2
「瑞樹、何をしてる?」
「あっ宗吾さん、芽生くん!」
「俺たちも遅刻してしまってな。よかったよ、君に追いつけた! ところで、さっきさ……」
宗吾さんが少し言い難そうな素振りを見せた。
「あっ、もしかしてさっきの……見ていました?」
「遠目だったから良く見えなかったが……その、女性に花を渡していたような」
「実は……あの時のように散らばった心を集める手助けをしていました。僕に何が出来たのか分からないですが、何かしてあげたかったのです」
宗吾さんに事情を告げると、彼は僕の頭を子供みたいに優しく撫でてくれた。
「そうだったのか……それはお疲れさん。瑞樹が女性と話しているとすぐに妬いてしまうのは俺の悪い癖だな。いい事したな……でも、あまり君が考え過ぎるなよ」
「はい……そうですね」
「瑞樹が出来る事を、出来る所まですればいい、あとは当事者の問題だ」
「分かりました」
確かに宗吾さんの言う通りだ。引きずられないようにしないと……必要以上に。
****
「よし、じゃあ行こう」
「おにいちゃん、手、つないで」
「いいよ! あっ芽生くんお洋服、カッコイイね」
「わーい! おにいちゃんがえらんでくれたのだよ」
「よく似合っているよ」
「おにいちゃんもね」
「ありがとう!」
今日はホテルで食事なので、芽生くんは青空色の襟付きシャツを着ていた。
僕も実は……お揃いのシャツだ。
子供服から大人まで同じデザインを扱っているアパレルショップが最近のいきつけで、そこで購入した。
それにしても先日の若草色のTシャツもそうだが、ついお揃いを買ってしまうのは、親心に近いのかな。
僕もかつて弟とよくお揃いの服を着せられていたな。
Tシャツは家族で色違いを着て、キャンプに行った。
アウトドアが好きな両親だったので、よく休日にはキャンプやハイキングをした。あの日も、その帰りだった……
少しだけ感傷的になっていると、宗吾さんが訴えてきた。
「なんだ。ふたりとも今日もお揃いかぁ。ううう、今日こそは俺の服も選んでくれよー」
羨ましそうに言うのが、微笑ましい。
最寄りのデパートに馴染みのアパレルショップが入店しているので、宗吾さんを案内するつもりだ。それが僕のスクールの後に、恵比寿で待ち合わせした理由だ。
「ぜひ……食事の後に、選ばせて下さいね!」
「おう!楽しみにしているよ。じゃあ急いで、中華料理を食べに行くぞ」
「楽しみですね」
「おにいちゃんはモモまんじゅうすき?」
「うん大好き。あれ? でもそれはデザートだよ」
「そうなの? ボク、そればかりたべたいなぁ」
「えー」
「もうボクおなかすいたーはやく!はやく!」
自然に、三人で手を繋いだ。
日曜日の昼下がりは、家族団欒の時だから。
街には木漏れ日が溢れ、行く道をキラキラと照らしていた。
その中を、僕たちは仲良く、家族として歩いて行く。
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