箱庭の外 5-2

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箱庭の外 5-2

 過去の思い出に引きずられそうになっていると、芽生くんが僕の手を強く握ってくれた。 「おにいちゃん、ここって、おとぎ話にでてくる、かいだんみたいだね」 「……そうだね」 「ねぇあそこで、ひとやすみできるんだね」 「……うん」 「いってみよう!」  僕は芽生くんと手を繋いで、あの日……アイツとお嫁さんがいた場所に立ってみた。  立てた!  僕もここに……! 「わぁ……おにいちゃん、ここからだと、下がよく見えるね」 「そうだね、本当に」  僕の左隣に芽生くんが立ち、手摺に掴まって、キラキラした視線を振り撒いていた。  僕も踊り場から、ロビーを見下ろしてみた。    僕が立っていたのは、あの柱の陰……だから一馬には見えなかったはず。  だがお嫁さんの立ち位置からだと微妙に視界が違っていて、僕の姿が少し見えてしまったかも。その事に、今更ながら気が付いた。  そして幻を見る。  僕自身が、あの日の僕の姿を……  招待されてもいないのに黒い礼服を着て、ひっそりと佇んでいた。  泣きそうな顔。  諦めたような顔。  でも最後は何かを吹っ切るような表情を浮かべ、踵を返して去って行った。 「あっ」 「瑞樹。君はあそこから、見送ったのか」 「そうです……あの柱に隠れていました」 「そうか」  宗吾さんは多くは語らず、僕の肩にポンっと手をのせてくれた。  あたたかい温もりが、じんわりと伝わって来る。 「おにいちゃん、どうしたの?」 「ん……」 「さみしいのなら、おててつないであげるよ」 「うん、ありがとう」  それから芽生くんを真ん中に、僕たちは手をギュッと繋ぎ合った。  もう大丈夫だ。  今の僕は……あの日のように行き場のない、ひとりぼっちの寂しい人間ではない。僕の手は、こうやって家族としっかりと繋がっているのだから。 「宗吾さん……ありがとうございます。本当の意味で吹っ切れました。今が……幸せだから」 「瑞樹……君が心からそう思えるのなら、よかったよ」 「はい……!」  サヨナラ……  僕の悲しい思い出。  あの日一馬に向けて 『もうこれで永遠のサヨナラだ』と言い放った僕の幻とも、サヨナラしよう。  家族を持った僕は、こうやって一つ一つ悲しい思い出を塗り替えていく。 「さーて、俺たちも行くか」 「そうですね。行きましょう!」  そして前に進んでいく──      
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