箱庭の外 6-1

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箱庭の外 6-1

「パパ、これがいいんじゃない?」 「うーん、黄色かぁ」 「駄目?」 「うーむ」 「もう、じゃあこっちは」 「えっ今度は真っ赤かぁ、なぁ……もう少し地味なのを頼む」 「じみ? パパ、もぅ~おじーちゃんみたいなこといわないで」 「おじーちゃん? それも困る!」  芽生くんが一生懸命、宗吾さんに洋服を選んであげている。    ふふっ、信号みたいな色ばかり持って来られて、宗吾さんがたじたじなのが面白いな。  その様子が微笑ましかったのと、大切な親子の時間の邪魔をしたくなくて、僕は店の片隅でそっと様子を見守っていた。 「おいっ、瑞樹はどう思う? 君ならどれがいい?」  宗吾さんはすかさず僕を見つけ、おいでおいでと明るく手招きしてくれる。 「あっはい」  彼はこんな時、すぐに僕を輪の中に迎え入れてくれる。  さり気なく……それでいて強引に。  宗吾さんって本当に裏表がない人だ。  いつも直球で僕を求めてくれるのが心地いい。  駆け引きなしに欲しいものを欲しいと言ってくれる。  僕の躰を求める時だって、いつもそうだ。    どこまでも貪欲に、それでいて僕の躰を気遣い……でもやっぱり全てを奪うように強引な時もあって。僕はいつだってそんな宗吾さんの強引さが心地よくて、素直に身を委ねて快楽を求めてしまう。  ここ最近、金曜日の帰宅がスクールのため遅くなり、疲れてそのまま眠ってしまう事が多かった。  きちんと最後まで出来ていないからなのか、中途半端に分散しているせいなのか。もしかして欲求不満なのは、僕の方なのかもしれない。  こんなに自分の性欲が強いと思わなかったので、照れ臭いし、恥ずかしいな…… 「おい? 顔がにやけているぞ」 「え?」  しまった! 頭の中が飛躍し過ぎた。  ここはショップの中だというのに、恥ずかしい。 「もしかして……エッチなこと考えていた?」  耳打ちされて、いよいよ、しどろもどろだ。  流石にそうですとは白昼堂々と言えない! 「ち、違いますよ! な、なんで……もう……」 「あのぉ……お客様、結局どちらになさるのでしょうか」 「す、すみません」 「よし、じゃあこの3色に決めた。君に選んでもらおうと思ったが、やっぱり俺が選んでもいいか」 「はい! やっぱり宗吾さんらしいですね」  結局、彼が全部決めてくれた。 「パパーこれ、ならべるとお空みたいだね」 「本当だ。それから海にも見えますね」  濃い青は宗吾さん。  水色は僕。  さらに淡い水色は芽生くんだ。  ポロシャツを3枚並べると、空のようにも海のようにも見える繊細なグラデーションを描いた。 「だろ? みんな同じ色もいいが、3人並ぶと、より綺麗に見えるのも斬新でいいと思ってさ」 「はい。僕は水色が好きです。空の色、海の色……広くて深い、自然の色ですね」 「そうだ。その空の下に咲く花が、君だよ」 「そ、宗吾さんは、もう」 「深みを増して行く……辿り着くのが楽しみになるような、コーデだよ」 「もう……流石です」  どこでも包み隠さず僕への愛を囁いてくれるから、なんだか酔ってしまいそうだ。  宗吾さんは外でも同性の恋を隠さず、当たり前のように堂々としているので、周りも変に勘繰らないで、あたたかな眼差しを向けてくれる。 「これを着て、どこかに行きたくなりますね」 「夏の旅行か」 「はい、芽生くんも夏休みに入るし、どこかに連れて行ってあげたいです」 「そうだな夏はキャンプなんてどうだ? 涼しい高原もいいな」 「そうですね」 「あーでも、その前に俺、海外出張なんだよなぁ」 「あっそうでした……」  実は来週から宗吾さんは、再びニューヨークへ出張に行く事が決まっていた。  広告代理店という仕事柄、海外出張が年に数回あるのは理解している。前回は昨年の秋だから、だいぶ間が空いた方だ。お互いにサラリーマンだし贅沢は言えない。 「ちゃんと芽生くんとお留守番しているので、大丈夫ですよ」 「あぁ悪いな」 「……少し寂しいですが」 「ん、俺もだ」
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