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幸せな復讐 13
「おにいちゃん、もうあがりたいなぁ。あつい~」
「そうだね。宗吾さんはどうします?」
「俺はもう少しいいか」
「くすっ、ふやけないで下さいね」
「おう!」
温泉の檜風呂は深さがあったので、僕が抱っこして芽生くんを出してあげた。
熱めの湯だったので、僕も身体の芯からポカポカになっていた。
和室の畳には、先ほどお互いに脱ぎ捨てた衣類が散乱していた。
「あーあ、これじゃ、いつもの宗吾さんの部屋と同じだ」
「えへへ、ごめんなさい。ボクも手伝うよ」
バスタオルで身体を拭きながら、苦笑してしまった。
「瑞樹、そこの扉、蒸気が漏れるから閉めてくれ」
「はい! ごゆっくり」
宗吾さんは湯船にゆったりともたれて上機嫌で、鼻歌でも歌い出しそうだ。
「お兄ちゃん、おふろあがりには何をきるの?」
「そうだね。せっかくだから、もう浴衣にしようか」
「ゆかた? おまつりできたのだね~」
「ふふ、まぁにたようなものだね。あっ、芽生くん、バスタオルでよく拭いてからだよ」
「はーい」
僕は押し入れを開いて籠にセットされていた浴衣を手に取り、先にざっと着付けた。
「あ、下着……まだ鞄の中だ」
まぁ、いいか。それより芽生くんの浴衣はどこかな?
あれ? 大人の中と大サイズしかないな。
「お兄ちゃん、ねぇねぇ、ボクのゆかたは?」
「うーん、困ったね。子供用のはないみたいだ。芽生くん……一応、パジャマを持って来たよね」
「えー、ボクもおまつりのゆかた、きたいよぉ」
「やっぱり、そうだよね。じゃあフロントに電話してみよう」
「うん! ありがとう! あるといいなぁ」
まだ裸ん坊の芽生くんと一緒に、昔ながらの電話の受話器を取った時、玄関のインターホンが鳴った。
「あ! お兄ちゃん、きっとボクのゆかただよ」
「え? そうなの?」
「はやく、はやく!」
「わ、芽生くん、まだ裸ん坊だよ~」
僕は慌てて芽生くんをバスタオルで包み、そのまま抱っこして、玄関に向かった。
「はい!」
何の気なしに扉を開けると、突然目の前に一馬が立っていたので、驚いてしまった。
「か……」
思わず一馬と呼びそうになって、言葉を慌てて呑み込んだ。
一馬も明らかに動揺していた。
「……みっ……お、お客様、お子様の浴衣の準備が行き届かず、申し訳ありませんでした」
「あっ、はい」
心臓が飛び出そうだった。
僕……ちゃんと浴衣を着ているよな? 芽生くんは裸ん坊だけれど!
「わぁ、これってお祭りのだ」
「子供用の半被です。気に入りましたか」
「うん! オジサン。ありがとう!」
「あ……いえ。では……」
『オジサン』って、芽生くん、一馬は僕と同い年だけれど……しかし、なんだかお前は僕よりずっと落ち着いてみえる。
旅館の主としての貫禄なのかな。
はぁ……それにしても、驚いた。
こういのは仲居さんがやるのかと思っていたのに、一馬自ら持ってくるなんて。臨機応変に頑張っているのだな。お前はお前で……この2年間、頑張ってきた。それを無事に見ることが出来て、良かった。
芽生くんは半被を早速着て、お神輿を担ぐ真似をしている。
「ワッショイ! ワッショイ!」と大喜びだ。
くすっ、本当に無邪気で可愛いな。
「パパー、これ、みてー!」
「お? 粋だな。子供の浴衣に半被だなんて」
「ですよね」
「そんなの置いてあったか? さっき見た時、なかったが」
「え……」(わわ、流石……宗吾さん、鋭いですね!)
「誰か今、来たのか。風呂場のドアを閉めていたから気付かなかったが」
「え、えっと……」
まずい……もしかしたら、気を悪くするかも。
「あのね、パパ、さっきのオジサンがこれ、もって来てくれたんだよ」
「オジサン?」
「うん! お兄ちゃんと『ごえん』があったって人」
「なんだって! いや待てよ。オジサンか……ふむ」
「おにいちゃん、ここ、暑いからテレビをみていてもいい?」
「うん」
確かに温泉の蒸気で、浴室に立っているだけでも……汗だくかも。僕も変な汗が出てくるよ。そして、宗吾さんは「オジサン」という言葉で、黙りこくってしまった。
「あ、あの……?」
「みーずき。オレは『オジサン』かな」
「いえ! 宗吾さんは、カッコイイですよ。どんどん若返って来ています!」
あれれ? これは地雷?
「うっ、そうか、そうだよな……やっぱり最初は老けてたよな。瑞樹、あの時俺のことを絶対40歳以上だと思っていただろう」
「あ、そんなことは」(ありましたねぇ……)
「コラッ、素直に認めろ」
ふざけた宗吾さんに後ろから抱きしめられてしまった。
胸がバクバクしてくる。
「あ……駄目ですよ」
「瑞樹、俺は……大人だからな。さっきからずっと大人対応していたが、そろそろ限界だ!」
くるりと反転させられ、唇を奪われた。
「ん……駄目ですって、芽生くんが」
隣の部屋にいるのに……。
「少しだけ、大人対応した俺に褒美をくれ」
「あ……」
熱心に唇を吸わされ……首筋を軽く吸い上げられた。
「も、もう――」
宗吾さんの独占欲を感じた。しかし、それは少しもイヤなものでなく……嬉しいものだった。
「ここに痕をつけたいよ」
「い、いいですよ……つけても」
「……瑞樹は優しすぎる」
宗吾さんはキスマークはつけずに、優しく舌を這わせ……その代わりに、大きな手でヒップを揉み込まれた。
「あ……う……流石にもう戻らないと……」
「あれ? 瑞樹、君……まだ下着をつけていないのか」
「あ……鞄の中だったので……あとで履こうかと」
「おい! そんな姿で応対したのか!」
「も、もう――」
宗吾さんを良い子の大人に戻すために、僕は背伸びして、宗吾さんの口を封じた!
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