幸せな復讐 21

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幸せな復讐 21

「瑞樹? ……みずき」 「あ……」 「大丈夫か。一瞬落ちていたな。ごめんな、かなり無理させた」 「……いえ、大丈夫です」  そうか……あれから僕はぐずぐずに感じまくって、目眩がするほどの快楽に溺れ、意識を飛ばしてしまったようだ。 「水を持ってくるから待っていろ」  慌てて起き上がると、まだ裸だった。しかも全速力で走り終えたばかりのように背中にも胸にも、汗が溜まっていた。 「すごい汗……凄かった……今日の宗吾さん」    僕を全力で抱いてくれた。だから僕も無我夢中でついていった。  宗吾さんが覆い被さってくれると、その重みが心地良かった。体中を隈なく愛撫されると震え上がるほど過敏に感じてしまった。耳朶に囁かれる愛の言葉には、胸が甘く膨らんだ。  僕は幸せだ……本当に幸せだ。  寝ても覚めても、幸せな心地でいられる人と出会った。  僕を一心に求めてくれる人がすぐ傍にいて、僕も彼になら、過去も現在も未来も分かち合いたくなる。  あぁ……こんなにもしっくりくる相手と巡り逢えたなんて、やっぱり幸せだ。 「あっ……」  先ほど熱い猛りが侵入して来た内部は、まだ余韻に震えていた。後処理は意識を飛ばしているうちに、宗吾さんがしてくれたらしく、何も漏れてこないが……そこは明らかに宗吾さんを名残惜しがっていたので、心が火照ってしまった。  冷静さが戻ってくると皺だらけになったシーツが目に入って、一気に恥ずかしくなった。  感じまくった証しのように、存在していた。  そっと手を伸ばすと、ふたり分の温もりを感じた。 「あたたかい……あたたかな人だ」    宗吾さんを想いながら畳に体育座りして俯いていると、戻ってきてくれた。  ちゃんと戻ってきてくれる人。  僕に水を運んでくれる人が宗吾さんだ。 「瑞樹、ほら、水を飲め」 「あ……はい」   水を飲みながら、宗吾さんによって僕がどんなに潤うのかを、しみじみと感じた。 「全部飲めよ」 「……はい」  ちらりと芽生くんを見ると、可愛い寝顔ですやすや眠っていたので安堵した。 夜中に起きてしまったら大変だと躊躇していたのに、途中から我を忘れて……声も結構出してしまった。 『幸せな復讐』に来た僕は、今宵この場所で、宗吾さんに抱かれたかった。  それを許してもらえたような気がした。  ありがとう。芽生くん。  朝になったら……沢山一緒に遊ぼうね。 「なんだか、お互い、ドロドロだな」 「くすっ、なんだか出し切ったって感じですね」 「おぉ! 瑞樹がそんな台詞を」 「そ、その……ですね、身体は疲れているのですが、頭がクリアになったというか」 「ふぅん、じゃあ、もう出ないか」  宗吾さんが、さり気なく僕のものに触れてきたので、慌てて足を閉じた。 「も……もう……出ません! これ以上は旅行に差し支えが」 「よし! じゃあ最後に風呂に入ろう。せっかく部屋に掛け流しの温泉があるんだから」 「はい」   起き上がろうとしたら、ふらついてしまい、宗吾さんに支えられた。 「おっと、まだ無理すんな。運んでやるよ」  また横抱きにされてしまい……恥ずかしい。  宗吾さんの顔が照れ臭くて、まともに見られない。 「こういうの嫌か」 「……僕も男なのに……体力なさすぎですね」 「そんなことない。受け入れるのは負担が多い……本当にありがとうな。瑞樹」 「いえ……僕がそうして欲しかったから」 「君のことは行きも帰りも責任を持つよ。一生な」 「あ……はい」  さり気ないプロポーズのような言葉に、胸がポッとあたたかくなる。   「うわ、すごい蒸気だな。あぁ、そうか窓を閉め切ったせいか」  浴室は白い蒸気で溢れていた。 「窓を開けましょう」 「そうだな。もう夜中だからいいよな」  宗吾さんが、窓をガラリと全開にしてくれた。  するとさっと空気がクリアになった。  高窓なので歩いている人からは中は見えないが、声は丸聞こえだろう。今は真夜中なので差し支えないが、さっきは……寝室に移動しておいてよかった。窓もしっかり閉めておいてよかった。  宗吾さんとの愛の交歓は誰にも見せたくないし、聞かせたくないな。  あ……僕、なんだか独占欲の塊みたいだ。  いつの間にか、幸せに対して欲が出ていた。  まだ夜は冷えて、窓から入ってくる風はひんやりとしていた。 「あ……月が見えますね」 「クリアに見えるな。空気が澄んでいるせいか」 「はい、そうですね」  二人で見上げた月は白く透明で、今の僕の心のように透き通って見えた。  **** 「カズくん、お疲れ様」 「春斗は?」 「ちょうど眠ったところ」 「どれ?」  見回りを終え、宿に隣接する自宅に戻ると、妻が寝室で春斗を抱いていた。 「甘えん坊だな。また抱っこで寝付かせたのか」 「そうなの、流石に、そろそろ重たいね」  妻が慎重に布団に置いてやると、そのまま万歳をして、寝息を立て始めた。 「君もお疲れさん。風呂……入るか」 「うん、ねぇ……今日は一緒に入らない? って……私、誘惑してる?」  妻が朗らかに微笑んだので、俺も釣られて笑った。   「……俺も同じ気持ちだよ」 「よかった!」 風呂場の窓から見上げた月は、透き通るように美しかった。  先程まで、なんとなく靄がかかっていた視界も気持ちも、すっきりと晴れていくようだった。  俺は……この幸せを、どこまでも大切にしていこう。      
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