その後の三人『家へ帰ろう』1

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その後の三人『家へ帰ろう』1

 こんにちは。海です。  今日は最初にご挨拶をさせてください(不要な方は、飛ばして下さいね)  2021年5月23日に無事に『幸せな復讐』を終えたシーンで物語は完結させました。その後、読者さまからの、沢山のスターやペコメ、スタンプに癒やされました。最後まで応援していただけて、嬉しかったです。ありがとうございます。そして最初から読み直して下さっている読者さまが沢山おられるようで、嬉しいです。  実は『しあわせやさん』https://estar.jp/novels/25768518という私のエッセイで由布院から帰る様子を、数行の小話で書いていたのですが、溜ってきたので、加筆して1話にしました。  よろしければ……いつもよりは短いですが、また三人に会ってやって下さい♡ **** 『家へ帰ろう』1 「ふぅ……」  一馬が見えなくなるまで、僕は手を振り続けた。    これがお前と僕が望んだ道だ。  また会う日まで、元気で―― 旅館のバスが道を曲がったところで、視界からふっと一馬と春斗くんが見えなくなった。  ようやく僕は大きく息を吐いた。  バスの座席に深くもたれると、隣に座っていた芽生くんに話し掛けられた。   「お兄ちゃん、まだだよぉ~『お家に着くまでが遠足だ』って、先生が言っていたよ」 「あ……確かにそうだね」  僕も小さい頃、良く親にも先生にも言われていたことだ。  いつの世も同じだね。  芽生くんに同意するように微笑むと、今度が可愛いお誘いを受けた。 「お兄ちゃん、帰りもあそこによろうよ」  あそこって、どこかな?  芽生くんの黒い瞳がキラキラしている。 「もしかして……空港の足湯のこと?」 「そう! お兄ちゃんね、いっぱいがんばったから、ひとやすみしてね」  ひとやすみか。優しいことを言ってくれるね。   「ありがとう! 芽生くんはいつも優しいね」 「えへへ、お兄ちゃんが好きだからだよ」  隣に座っている宗吾さんと目が合うと、彼も同意してくれた。 「芽生の誘いは魅力的だ。そう言えば今日はまだ瑞樹と風呂に入ってなかったからな」  明るい笑顔で何を言うのかと思ったら、もう……誰のせいで入れなかったと?   しかし宗吾さんのおおらかな笑顔を見ていると、全部許せてしまうのだから、本当に憎めない人だ。 「あの……空港は足湯ですよ?」 「ははっ、だな」  ****  瑞樹と芽生の会話は、いつ聞いてもいいな。  芽生の優しさの芽が、ぐんぐん成長しているのを感じるよ。    俺は隣の座席でふたりの会話に耳を傾けて、ほっこりしていた。  旅館の送迎バスを由布院駅前で降り、空港行きのバスに乗り換えた。  これでもう完全に若木旅館とはお別れだ。  と言っても、瑞樹が選んだ『幸せな復讐』は、俺が想像していたものとは違った。  俺は相変わらずだなと苦笑すると同時に、瑞樹らしい選択が気に入った。  もしも俺が彼の立場だったら、今の幸せな姿を、自分を置いて去っていった相手に見せつけて、それで満足して終わりだった気がする。  参ったな……あんなに『優しい復讐』があるなんてな。  相手の幸せを願い合う復讐があるなんて、この世も捨てたものではない。  流石、瑞樹だ。  君はいつも控えめで、つつましい。  しかし俺は知った。  つつましいというのは、シンプルなこと。  マイナスの感情などを置いて突き進む、潔い道は……美しいな。  君が進む道は、見通しがいい。  そのことに気付かせてもらう旅だったよ。 「宗吾さん、旅はいいですね。小さい頃は違う世界へ行くのが怖かったのに、今は違います。いつもと違う景色を見て、違う体験をすることによって、今の僕が置かれている場所を再認識できます」  瑞樹の横顔は夕日に照らされて、目映かった。 「……僕、九州の伸びやかな景色に、元気をもらいました。あいつも頑張っているのが分かったし、僕も僕の世界を謳歌したいです」 「俺もそう思うよ。あいつ……頑張っていたな。俺も父親としても恋人としても気合いが入るよ」 「はい。あの……僕は……僕らしい『幸せな復讐』を出来たでしょうか」 「あぁ、その通りだよ。とても良かった」  さぁ、三人で空港へ向かおう。    そして空を駆けて、俺たちの家に帰ろう。  
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