ゆめの国 8

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ゆめの国 8

「楽しかったね~、あれ? パパ顔が赤いよ。どーしたの?」 「お、おう! なんでもない」 「宗吾さん? 大丈夫ですか」 『ツリー・オブ・ストーリー』 から降りると、宗吾さんの様子が少し変だった。  いや……変といっても具合が悪いのではなく『ヘンタイ』の匂いがプンプン……! 嫌な予感がしてジドッと見つめると、宗吾さんは快活に笑っていた。 「お兄ちゃん、おトイレ~」 「宗吾さん、場所分かりますか」 「トイレならすぐ近くだよ。着いてこい」  手を洗って芽生くんを待っていると、宗吾さんが近づいてきた。  鏡越しに目が合うと、耳元で囁かれた。   「いや、その……さっきさ、瑞樹の悲鳴がエロ可愛くて参ったよ」 「は? 今なんて?」 「……えろ」  思わず宗吾さんの股間を見てしまったじゃないか! (僕も駄目だ……終わってる)   「も、もう! ここは『ゆめの国』ですよ」 「わ、怒るな! この通り!」  両手を合わせて僕を仏様のように拝んでくるのだから…… 「もう……(憎めない人)」 「お兄ちゃん、パパ、またヘンだった? ごめんね。それより来て、来て~」 「待って、どこへ」 「あそこ!」  芽生くんに手を引っ張られ、トイレの外に出ると小さな噴水があった。 「ほら、クマさんがいるの」 「本当だね」  まるで宗吾さんと芽生くんみたいな大小二頭のクマが水遊びしているモチーフだった。 「いいなぁ、クマさん、きもちよさそう!」  芽生くんが目を大きく見開き、キラキラした瞳で、噴水を見つめている。  僕は芽生くんのこの表情がとても好きだ。  大きく目を見開いて、じっと目の前のものを見つめる。  素直な心で受け止める。  そうやって心を開いて接したら、大切なものが何か掴めるね。  僕も花に向き合うとき、いつもそんな気持ちになるよ。  それにしても子供って水遊びが好きだよね。  芽生くんが手をそっと伸ばし水に触れた。  もっともっと触れたいって気持ちがぐんぐん溢れてきたようで、宗吾さんを見上げ「駄目?」と首を傾げて訴える。 「芽生、今日は水で遊んじゃ駄目だぞ~ 着替えを持っていないからな」 「あ、そっかぁ」  少ししょんぼりな芽生くんに、宗吾さんがすかさず楽しい提案をしてくれる。 「なぁ、夏になったらここで水浸しになるイベントがあるらしいんだ。夏休みにまた来るか!」 「え……いいの?」 「あぁもちろんだよ。パパも興味ありだ! な、瑞樹」  ウォーターイベントなのかな? 楽しそうだ。    「はい! そうですね」  宗吾さんの視線を胸元に浴び、一抹の不安を感じながらも頷いた。 「よしそろそろ腹が減っただろう? キャラクターのショーを見ながら食べられるところがあるんだ。彩芽ちゃんにも良さそうな所だからそこでいいか」 「いいですね」 「パパぁー お昼ごはんはなに?」 「ハンバーガーとクラムチャウダーでいいか」 「美味しそうですね」  **** 「あーん」 「わぁ、大きいですね」  キャラクターのぬいぐるみショーを見ながら、大きな口を開けてハンバーガーを頬張る息子と恋人を見つめていると、ほっこりと幸せな気分になった。  うさ耳姿の瑞樹は愛らしく、くま耳の芽生は可愛らしい。  うさぎもクマも仲良く共存できる『ゆめの国』なのだなぁと妙にしみじみと思ってしまった。  ふと見渡せば、老若男女……様々だ。  夫婦に恋人……同性同性の二人組も多く見かける。ただの友達同士だろうが、時々俺たちと同じポジションの匂いがするカップルともすれ違った。  ここでは皆が幸せな気分なので、人と違っていても気にならないし、誰も気にしない。それが居心地の良さの秘密かな。  兄さん、俺たちにとっても自然体でいられる最高のプレゼントだよ。サンキュ!  皆と違ってもいいのだ。  俺は俺だ。  俺らしく、この二人を守り寄り添い成長していきたいのだ。 「宗吾さん、『ゆめの国』って居心地がいい場所なんですね。僕もすっかり気に入ってしまいました。また来ましょう。夏休みに」  瑞樹も変わった。  未来に夢を持てなかった君はもういない。  もう罪悪感にかられ……苦しみ耐えなくていい。  この瞬間……今を楽しみ、未来に明るい夢を見る。 「宗吾さん、とても楽しいですね。ありがとうございます」  小さな感謝を忘れない君が大好きだ。   
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