ゆめの国 18

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ゆめの国 18

「家族写真か、いいですね。じゃあ、またお願い出来ますか」 「はい、こちらですよ。あの灯台からの景色がいいんですよ! 少しお疲れのようなので、写真を撮った後はのんびりしてくださいね」  スタッフさんと一緒に階段を上ると、そこには青と白のボーダー柄の可愛い灯台があった。そして灯台横にはちょうど3人掛けの白いベンチがあった。 「では、そのベンチにお座り下さい。さぁ撮りますよ」  まだ少し動揺している瑞樹の肩をグイッと抱いてやった。 「大丈夫か。みーずき、笑って! もう、ここには俺たちしかいないよ」 「あ……すみません」  ……すみませんか。また前のように萎縮してしまったな。    なぁ笑顔を作って、ポジティブになろうぜ! 「じゃあにっこりスマイルで……そうだ! 大好きな人のことを思い浮かべたら自然と笑顔になれますよ~」 「あ……っ」  瑞樹がその言葉に釣られて、ようやくニコッと微笑む。  可憐な花は咲くように……優しく微笑む。   スタッフさんが写真を撮り終えると、もう一人のスタッフさんが駆け寄って さっき道に零してしまったポップコーンの分を差し替えてくれた。 「えっ! さっきもいただいたのに……すみません」  瑞樹が平謝りすると、スタッフさんたちは首を横に振って笑顔でこう答えてくれた。 「大丈夫ですよ! 落ちてしまったポップコーンは、皆さんの残念な気持ちなんです。実はこれを集めると『優しい色の花』になるんですよ! だから大丈夫です。よかったらパーク内のお花をじっくりご覧くださいね。とても綺麗な色で咲いているはずです。お花を見れば、悩んでいた心もすっきりしますよ」  スタッフさんは明るい笑顔で手を振ってくれた。  今日はこの人に、二度助けられたな。  俺も感謝しよう。  しかし『優しい色の花』か、上手いこというな。瑞樹の罪悪感を減らしてくれてありがとう。 「お兄ちゃん、よかったぁ。ボクも魔法をかけてもらったけど、あの落としちゃったの、どうなるのか心配だったの」 「うん、そうだね」  瑞樹はベンチに深くもたれ安堵の溜め息をついた。  芽生は足をぶらぶらさせながら、暖かいポップコーンをモグモグ食べ始めた。 「わ! これカレー味だ」 「え? さっきと味が違うの?」 「お兄ちゃんも食べる?」 「食べてみたいな」 「じゃあ、あーん」  瑞樹が擽ったい笑顔で口をそっとあける。  いいないいな。俺も混せてくれよ! 「芽生、パパにもくれ」 「いいよぅ~ パパも、あーん」 「パクっ! もっとくれぇ~」 「わ、パパはよくばりさんだな」 「ははっ、それにしても芽生と瑞樹はやっぱり似たもの親子だな」 「あ、前も言われたよね。ボクがおしょうゆで、お兄ちゃんがジュースひっくり返して」  由布院でのことだ、確かにこの二人同じことするな。 「わー恥ずかしいよ。それはもう忘れて」  瑞樹がようやく笑ってくれた。  三人掛けのベンチは座り心地が良くて、長居してしまいそうだ。  海が目線の高さで広がっているので風景に広がりを感じ、夕焼け空を大いに楽しんだ。 「あっという間に日没ですね」 「日が暮れたら奥のエリア『アラビアの世界』にいこう。ムードがあるぞ」 「いいですね」 「パパ、それって魔法のじゅーたんのところ?」 「そうだ」 「ボク、コータ君ちでアニメをみたよ。魔法のじゅうたんにのってみたいなぁ」 「そういう乗り物があったぞ。そろそろ行くか」 「いいですね」  ****  夕暮れ時になると『ゆめの国』はますますムードを増して、ロマンチックな場所になっていた。 「あれだ~! あれに乗りたい」  休憩した芽生くんは復活して元気だ。 「よしっ、魔法の空飛ぶ絨毯か、よし並ぼう」    絨毯型の乗り物は二人席が二列の四人乗りなので、前に瑞樹と芽生を座らせ、俺が後部座席から二人の仲睦まじい姿を見つめた。  魔法の空飛ぶ絨毯は芽生が操縦して上下に動かし、俺が傾きを変える。  何だか、俺も……まるで自由に空を飛んでいるかのような気分になってきたぞ。  オレンジ色に染まる幻想的な空。  BGMには、あの有名な曲が流れてムードも最高潮だ。 「お兄ちゃん、きれい! おひめさまみたい~♫」  心が晴れた瑞樹の顔は夕焼けに照らされ艶めいて、明るい栗色の髪もキラキラ輝いて見える。  男なのに綺麗な顔立ちだから、芽生がそう言うのもムリないよな。俺も心の中でそう思っている。 「……お姫様か、くすっ。今日は忙しいよ」 「えへへ。お兄ちゃん、いろーんなお兄ちゃんがすき! だーいすき!」  子供の言葉は澄んでいるので、瑞樹も素直に受け止めているようだった。  ふわりと上昇し、五月の夜風を浴びる。  瑞樹……君にもっともっと見せてあげたい。   この世界の広さを。  もう怖がるな。  君はもう大丈夫、ひとりじゃない。  今この時、そして未来を共に生きていく人だ。  俺たちはずっと一緒だ。  ゆめの世界も現実の世界も……自由自在に飛んで行こう!   あとがき(不要な方はスルー) **** 本日アトリエブログ(創作HP)に『海のアトリエ』更新しております。 ゆめの国気分を味わってください。 投票やブログへやエブリスタTOPページからリンクで飛べます。 https://estar.jp/users/159459565
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