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【出逢い編】涙の雨 1
「パパー大変なの!」
日曜日の昼下がり。
いつもの公園の芝生の上で転寝をしていると、息子が血相を変えて飛び込んできた。
「どうした? また転んだのか」
さっきまで、すぐ横でシロツメグサの王冠や指輪を作り、四葉のクローバーを探して遊んでいたのに、俺としたことが目を離して……これでは父親失格だな。また親や近所の人に怒らてしまう。
慌てて息子の芽生の体を隈なくチェックするが、ケガをはしていないようで、ほっとした。なのに息子は今にも泣きそうな顔をしている。
「どうした? ケガしていないぞ」
「ちがうの! あっちでおにいちゃんがエーンエーンって泣いているから早くきて! どこかケガしちゃったのかも」
「どこだ?」
4歳の息子にグイグイと手を引かれ芝生の山を駆け降りると、運河沿いの芝生で一人の青年が項垂れ、肩をブルブルと震わせていた。
どうやら遠目からでも分かる程、激しく泣いているようだった。
近づいてみて、はっとした。彼はまだ若い青年で、日曜日の長閑な公園に不釣り合いの黒い礼服姿だった。もしかして……結婚式の帰りなのか。
あーあ、芝生に膝をついて、両手は土まみれになっているじゃないか。
放っておけないな。
俺も妻から離婚を切り出された時、あんな風に悔しくて悲しくて泣いたのを思い出した。
(信じられない! あなたってゲイだったの? バイ? そんなのどうでもいいわ。もぉ最低よ! 隠して私と結婚するなんて!)
(玲子……)
(近寄らないで! すぐに離婚するわ! 芽生はあなたが引き取ってよ)
妻だった玲子から軽蔑された目で見降ろされ、何の罪もない芽生は置いて行かれた。あれから必死に芽生とふたりで生活してきた。
「うっ……うぅ……」
嗚咽をあげて泣きじゃくる彼の元に駆け寄り、声を掛けてみた。
「どうした? 大丈夫か」
ビクッと驚いて顔をあげた彼の顔を見て、俺の方が大きく息を呑んだ。
驚いたことに彼は、俺がよく知る青年だった。
「君は……」
彼のことはずっと見ていた。芽生を送る幼稚園のバス停の道で、いつも見かけていた青年だ。でも俺が知る彼は、こんな悲痛な顔はしていなかった。
一体何があったのか、とにかく心配だ。
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