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淡い恋 1
本音を言うと、泣きじゃくる彼を、この腕でギュッと抱きしめてやりたかった。涙の雨を、そっと拭いてあげたかった。
だが……
「パパーどうしたの。さっきからこわいお顔でぼんやりしてるよ。わーたいへん! お肉もこげてるよ」
「わっ! ごめんよ」
芽生と家に戻って来てからも、先ほどの偶然の出会いを思い出して上の空になっていたのを反省した。
俺はまだ四歳の芽生の父親だ。浮ついた恋をしている場合ではないと、世間は言うかもしれない。
だが……俺だって、また恋をしたい。
何の花の匂いか分からないが、彼の身体からはやわらかい花の香りがした。
あんな状態だったのに、俺のことまで気にかけてくれるなんて……正直驚いた。
きっと君は心が優しいんだな。
ずっと遠くから眺めているだけだった彼が、すぐ手を伸ばせば届く距離にいることに胸が高鳴るよ。
だが……もう傷つけるだけの恋はしたくない。
だからつい柄にもなく今日は憶病になってしまった。でももしも今後……彼の方が俺に気が付いてくれたら、その時は友達からでいい。ゆっくりでいいから歩み寄ってみたいと、心の底から願ってしまった。
それにしても至近距離で見た彼は本当に可愛かったな。あの唇に、あの躰に……いつか触れることができるだろうか。
「パパってば、こんどはニヤけてる!」
「えっ」
「なんか気持ちわるいよ~ やっぱり公園のお兄ちゃんのことスキなんだね」
ううう……がっくしと肩を落とした。四歳の息子にこんなことを言われるとは不覚だ。
「コイツっ! なぁ……芽生にも『スキ』って気持ちわかるのか」
「うん!」
「へぇ本当か」
「分かるもん!メイはコータくんがすき!」
「んっ? ははっ、流石俺の息子だな」
玲子と離婚してもうすぐ一年経つが、この子がいたから救われた。こうやって笑いあえる相手がいるのを感謝している。
離婚後……玲子が出て行ったマンションで、芽生との二人暮らしが始まった。
幸い俺の仕事は出社時間を選べたので、思い切ってバス停のお母さんたちの井戸端会議というものにも参加してみた。すると、意外とすんなり受け入れてもらえたんだよな。
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