花束を抱いて 4-1

1/1
前へ
/1901ページ
次へ

花束を抱いて 4-1

 今日、5月2日は僕の27歳の誕生日。  明け方ベッドで宗吾さんにリクエストし、『普段通りの当たり前の1日』を贈ってもらうことにした。  というわけで、朝食に宗吾さんが焼いてくれた端がカリカリの卵焼きを食べ、午前中は皆で掃除することになった。 「おにいちゃんが来てくれてから、お家がキレイになったんだ」 「本当? 前は……確かに、少し汚かったね」 「うん、一番きたなかったのはパパのお部屋だよね。パンツがごろごろ転がっていたもんね」 「そうそう! あれは酷かったよね。あっでもメイくん、またお片付けしなかったね」 「わーん、ごめんなさい」 「いいよ。さぁここに入れて」  芽生くんと笑いながら、部屋の床面に広げたままだったプラスチックのレールを透明の衣装ケースの中に戻した。 「あーでも、もったいないなぁ」 「そうかな? また作ればいいんだよ」 「そうなの? パパはまた作るのは面倒だから、レールは動かしちゃダメっていつも言っていたのに、ちがうの?」 「そうか、でもね、何度でもレールは作り直せるよ。次はもっと面白いコースになるかもしれないし」 「うん! 分かったーこれからちゃんとやるね」 「よし、えらいね」  レールか。  そういえば『人生のレール』という言葉に、以前の僕は囚われていた。  一馬に捨てられた時、アイツの人生のレールから僕だけが降ろされたと落ち込んだのが、今は懐かしい。  敷かれたレールに囚われていたのは僕の方だったのかもしれない。  僕自身が10歳で両親を亡くし、新しい家に引き取られたことにより……『世間の目』を必要以上に気にするようになった。  『普通の幸せはこれで、これを持っていないと不幸だ』  そんな価値観を、自分で勝手に作り上げてしまった。  だから何も無い所に、レールを敷くのに臆病になっていた。  でも本当は……そこにこそ新しい希望があったのだ。  一度レールから外れても、違う道がある。  目的地までの道にいろんな道があるように、ルートは一つじゃない。  寄り道しても回り道しても、駅に辿り着くのと一緒だ。  幸せへの道筋は一つしかないわけじゃない。  そのことを宗吾さんに教えてもらっている。  もしかしたら、宗吾さんも僕も……道で迷っていた者同士なのかもしれない。  あの時はお互いに彷徨っていた。  思い描いていたレールが突然切断され、行き場を失い、目的地がどこか見えなくなって……  一番大事なのは、本当に僕が手に入れたい、大事にしたいものに向かって、僕自身がレールを敷くことだったんだな。  
/1901ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7927人が本棚に入れています
本棚に追加