Prologue

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今は休日出勤で家にいない姉の七瀬(ななせ)は、父と同じくT大を卒業後、当時の国家公務員一種試験を突破して、金融庁に入った「キャリア官僚」である。 とても同じ両親から生まれたとは思えないほど、あたしと姉は違う。 そもそも姉は、地元の公立といえほとんどの子が中学入試する小学校で「御三家」に楽々合格するだろうと言われていた(そして、その後実際に入学した)男子たちがひれ伏すくらいぶっちぎりの成績で「神童」の名をほしいままにしていた。 もちろん「女子御三家」のトップの中学に楽々と合格し、中学・高校の六年間一度も学年一位から陥落することなく、T大の文科一類に現役合格した。(医歯薬コースどころか文系・理系にすらコース分けしない姉の学校では、先生たちから最後まで理科三類を勧められていたらしいが。) さらに。 姉は父によく似た細面(ほそおもて)に切れ長の目、すっと通った鼻筋の……つまり、正統派の超美人なのだ。 しかも、背だってあたしより五センチほど高い。 中身ではなく容姿ばかりに重きが置かれると言って、本人は不本意だったらしいが、当然のごとく「ミスT大」に選ばれた。 血を分けたわが姉ながら、これこそ「才色兼備」という標本みたいな人なのだ。あまりにも偉大すぎて、妬んだり僻んだりすることすら畏れ多いと思ってしまう。 父は、姉が男に生まれてこなかったことを、心底残念に思っているに違いない。
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