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「見合いの相手は、おとうさんの部下なんだけどな……」
父はあたしに「釣書」の入ったA4サイズの封筒を差し出しながら口を開いた。
にわかに「お見合い」というものが、なんだか現実のものとして、じわじわと身に沁みてきた。
だけど、こっちにあちらの釣書が来てるってことは、もうあちらにあたしの釣書が渡ってる、ってこと?
だれが勝手に書いた?
……きっと、母だ。
高校の「書道」の教員免許も持っていた。
かなり複雑な思いを抱きながら、あたしは封筒から中身を取り出した。
お相手は、田中 諒志という人らしい。
勤務先は当然ながら父と同じ、金融庁の証券取引等監視委員会である。三十一歳、ということは姉と同い年だ。
「……えっ!?」
経歴を見ると「御三家」の一角を占める中高一貫の男子校を経てT大学文科一類を卒業し、国家公務員一種試験を突破した「キャリア官僚」だった。
「ちょっと……おとうさん、ほんとにこんな賢い人と、あたしがお見合いするの?」
あたしは信じられなくて、目を落としていた流れるように美しい毛筆から目を上げた。
「なんでだ?おとうさんと同じ経歴じゃないか」
父はこともなげに言った。
確かに、中学から大学まで、父がたどったルートとまったく同じだった。
だけどっ。
「あたし、バカだもんっ。
こんなに頭のいい人とは絶対に話が合わないよ」
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