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背中に回されたミュルバッハの手が、シャツの上から器用に、ブラのホックをはずした。
わたしも、ミュルのベルトのバックルに手を伸ばし、引きちぎるようにしてジーンズのボタンフライをはずしていく。
勃起しまくって、ジーンズの中でどうにも行き場を失くしていたミュルのペニスが、枷から解放されたように、ひとつ大きく揺れた。
トランクスに手を入れて、わたしはミュルに、直接触れる。
それはもう、片手で握るのも難しいほど、熱く大きく硬くなっていた。
うん……完璧。
胸の内でそう独りごち、人差し指でそっとペニスの先端を撫でたところで、ミュルバッハがTシャツの裾から、手を入れてくる。
わたしの乳房を大きな掌におさめて、ミュルはゆっくり揺らし始めた。
そっと揉まれているだけなのに、胸の頂きが甘く痺れる。
と、ミュルバッハが胸から手を離し、これまた片手で器用に、わたしのシャツとブラを一緒にクルクルと巻き上げて脱がせた。
射撃に来たわけだから、それほど大した服を着てきちゃいないけど。
それでも乱暴に引っ張られて、伸びたり破られたりしたら帰りが困る、着替えなんか持ってきてない。
アホのセクハラ男だが、こういうところがガサツでないのは、結構「使える」と思う、ミュルは。
ミュルバッハが、背中を丸めるようにして俯く。
焦げ茶のくせ毛が、わたしの顎先をかすめた。
ざらりと熱っぽく分厚い舌に、乳首を舐られる。
じくんとした刺激に、思わず「んっ…」と鼻にかかった小声が洩れた。
乳首の中心の、一番感じるところに直接届くような、捏ね回す舌使い。
先端をくすぐってみたり付け根を甘噛みしたりと、愛撫に単調なところは、まるでない。
正直、いままでは、胸の愛撫なんかどうでもいいよって思うことが多かった。
「相手が触りたそうだから触らせてやってるだけ」みたいな?
こっちからの男への前戯の一部って感じ。
だって、乳首の愛撫が上手い男なんて、めったにいない。
胸でこんなに感じるのは、実はミュルが初めてだ。
この、じわじわした心地よさから始まって、段々と鋭くなっていく快感。
結構、病みつきになる。
そう。最初は「そっと」がいい……。
でもすぐに。
どんどん強くしてほしくなってくる。
ミュルバッハの舌使いは、そこも申し分なかった。
でも、それでもやっぱり。
それもすぐさま、すごく物足りなくなってくるのだ。
たとえるなら、エスプレッソにつけ合わされた、ほんのちいさなチョコレートのかけらみたいな。
どっちもすごく良いんだけど、でもどうしても物足りない感じ。
コーヒーもチョコも……。
どっちも。
だから、「……もっと、ミュル、もっと…いっぱい吸って」って、ねだりながらも。
わたしはもう、別の刺激が待ちきれない。
そう。
ミュルバッハに馬鹿にされるのも、無理なくって。
警察学校での、わたしの射撃の成績は、かろうじての合格ライン。最低だった。
他の科目が良かったから卒業できたようなもの。
でも、射撃は好きだ。
男どもが「これ」を気に入るのは解る気がする。
なんかスカッとするし、腰がうずく。
わざわざ射精の疑似体験をしたことはないけど、きっと「こんな感じ」って想像できる。
休日にわざわざ、ミュル言うところの「コソ練」をしなくちゃならないような「よんどころのない事情」ってものがあって。
わたしは、この場末のガンレンジに午後中こもり、ゆうに、弾をふた箱分は撃ってた。
……だからもう、身体中、どこもかしこも敏感になりきってる。
ふと、今日は服がいまいちな分、下着はお気に入りを着けていたことを思い出した。
脚のつけ根は、もうさっきから、めちゃくちゃにぬるついている。
やだな、早く脱がないと、ショーツ濡れちゃう……。
シルクなのに。
ミュルは相変わらず、わたしの腰やヒップを撫でまわしながら、うなじや鎖骨や乳房への愛撫を続けていた。
うん、前戯が丁寧なのも、あんたのいい所だよ。
それは評価してはあげる。
あげるけどさ、ミュル……。
「……も、いい…から」
切れ切れにかすれるわたしの声に、
「ん?」と、ミュルは余裕のない声で、上の空の返事。
でも、言われてることは解ったみたいで、ミュルバッハは、わたしを抱え上げると射撃台の上に載せた。
ベルトがバックルから、ぐいと引っ張られ、ジーンズが引き下ろされる。
足から引き抜かれる時に、サイドゴアのアンクルブーツが一緒に脱げた。
そして華奢なレース使いのショーツを、ミュルが指先を使って、わたしの腰からそっと引き下ろす。
閉じ合わさった襞の間に、無骨な、だけどやたら繊細な動きをするミュルバッハの指が入り込んできた。
トロトロに蕩けきっていたその場所は、ミュルの指にまとわりついて、無人の射撃場にエロティックな水音を響かせる。
……こんなに濡らしやがって。そんなにほしいのか?
とか、なんとかかんとか。
この程度のベタな言葉攻めするほどの「おつむ」もないようで、ミュルは、荒ぶる息を押し殺しながら、ただひたすら、わたしの陰核をくすぐっていた。
その部分は、ミュルバッハの指に舐られるたび、くちゅり、くちゅりと音を立てる。
あんまり濡れすぎてて、ちょっときまり悪い感じもするほどに。
クリトリスへの刺激は、焼け付くような強い痺れを伴った気持ち良さではあるけれど、あっという間に上げ止まって、踊り場に達してしまい、すぐに物足りなくなってくる。
「ミュ…ル、そ、れも、もういいって…ば」
焦れまくって、わたしは堪らずにこう洩らした。
ミュルの指で、もう二度くらい、ごく軽くだけど達してる。
するとミュルバッハは、無言のまま、中指をつぷと膣に差し入れた。
反射的に、わたしはミュルの指を締め付けてしまう。
入口から、とろり熱い液が溢れ出して、腿を伝ってゆくのを感じた。
ミュルが、膣内をゆるゆるとかき回し始める。
わたしは、勝手に揺れ出す腰を止められない。
「…っと、もっと、おく」
ミュルの太い首筋に両腕を回し、耳たぶに齧りつきながら、わたしは言う。
「や、もう、いれ…て、はや、く、はやく」
返事はなかった。
いきなり、指がわたしの中から抜きとられる。ミュルに抱えられ、射撃台から腰が浮いた。
そして、本当にだしぬけに、ものすごい圧力が潤みきった場所にかかった。
……くる。
はいって、くる。
悲鳴めいた嬌声が、くちびるから洩れ出るのを、わたしは堪えきれない。
熱くて大きくて硬いものが、わたしを侵食し始める。
まず、そこですぐに、わたしは絶頂に達した。
それほど高い山じゃなかった。でも。
身体の奥から、絞るような痙攣が生みだされて。
わたしの内襞は、途中まで受け入れているミュルバッハに吸いついて、締め付けるように蠢いた。
ミュルバッハが、ぐっと息を飲む。
大きな腰が、弾かれたように大きく跳ねた。
あ、バカ、こいつ。
だめ、まだダメ。
……今、イきやがったら、お前、ミュル。コロス。絶対、コロス。
という、内心での脅しが功を奏したのか。
ミュルバッハはくちびるをきつく噛みしめて、わたしのオルガスムスによる締め付けを、なんとかこらえ切った。
そしてふたたび、きつく締まったわたしの奥の方へ、自分自身を押し入れ始める。
それも、ごくごくゆっくりと。
「や…だぁ、はやく、はやくきて、き…て、ミュルぅ」
頭を振って駄々をこねるわたしを、ミュルバッハが黙ったまま、片腕でぎゅうと抱きとめる。
「おく、もっとおく、いっぱい、ゆすって、もっと」
とかなんとか、後から思い出したら赤面しそうな、ものすごいおねだり口調のエロいセリフを、わたしは口走っていた。
自分が、えらくやらしい声をあげてるってことは自覚してる。
……マスターベーションしながら、バーチャルセックスバイトとかやったら、絶対売れっ子になれるだろうな、自分、とか。
そんな根拠のない意味不明の自信が湧いてくるほどに。
「そ、んな…あせんなよ、ゲイシャガール」
黙りこくって息を殺していたミュルバッハは、やっとのことで、こう声を絞り出すと、ついに、ずんと、わたしのお腹に腰を打ち付けた。
深くえぐるように、ミュルバッハのペニスが、わたしの最奥に達する。
息もできないくらい、お腹の中が熱くなった。
とろりと、襞の間から蜜液があふれ出るのを感じる。
ミュルは、リズムをつけて波打たせるように、行き止まりの部分を刺激し始めた。
その波動は、奥の奥まで、わたしを揺れさせる。
身体中を熱く震えさせて支配する、すごく強い、でもどこか鈍いような。
そんな快感。
……これ。
これがほしかった。
やっと与えられたものに歓喜し、わたしは悦びの声を洩らす。
でも、それはあまり大きな声じゃない。
あまりに心地いいと、そっちに全精力が傾いてしまうから、声の方にまでエネルギーが回らない。
それにしても、ミュルときたら。
さっきから、わたしを片手で抱え上げたままで、延々と腰を使い続けてるけど。
いくら体力自慢でも、それはさぞかし疲れるだろうよ? どうなの。
とか、そんなことが、わたしの頭をよぎらないではないんだけど。
でも、ミュルバッハの動きは淀むことなく続いていて、わたしの身体を悦ばせ続けてた。
そして、ひたひたとわたしの中に蓄積していた快感が、容量をオーバーして溢れそうになる。
表面張力の限界って感じで。
「い、や、やだ、ミュル、やめな…で…やめない、で」
そんなこと言わなくったって、ミュルバッハが「へばる」わけないのは解ってたけど。
でも、もう、すぐそこまで来てる。だから。
今は、絶対止めてほしくない。
……もうちょっとなの、すぐそこに、もう。
「い…く」
こう口にしたと同時に、わたしの頭の中は、真っ白に焼け付いた。
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