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よっこいしょっと。
はなはだ色気のない掛け声を小さく洩らして、わたしはミュルのベルトを引っ張った。
身体と同じにゴツいバックルが、ガチャガチャとやかましい音を立てる。
まったく、コイツって、何もかもがおっきくて無骨だ。
ジーンズのボタンフライをブチブチと開く。
中がパンパンに張ってるから、ひどく外しにくかった。
そして、下着ごと、ミュルのジーンズを膝まで引き下ろす。
ほぼ完全に勃起しているミュルバッハのペニスが、一部分も隠れることなく露わになった。
その根元を両手で支えて、ゆっくりと先端に向かって舌先で舐め上げる。
「ふぇ? なっ…?」
ミュルバッハが、間抜けた声を上げる。
そして、何かを飲み下すように喉を鳴らした。
力加減を変えながら、何度か舌を上下させて様子をうかがうけれど、ミュルはくちびるを噛み締めて身体を固くしたままだった。
うーん。
あんま、良くないのかな……?
ミュルに「これ」したことって、そういえばなかったっけ。
くちびるで先端を啄みながら、わたしはミュルの顔を目線で見上げる。
ほとんど瞼を閉じて、苦しげにすら見えるような表情。
肩が、呼吸に合わせて小さく上下していた。
……えー。
どうなんだろうなあ。
感じてる? のかな。
そもそも、フェラ自体が久しぶりすぎてなぁ……というか。
実のところ、わたし、これってあまり自信ないんだよね、テクニック的に。うん。
しっかし、大きすぎて舐めるのも大変なのだが。
ゆっくりと、ミュルバッハの先端部分を咥え込んでいく。
歯が当たらないように口を大きく開けて、舌を絡めた。
あ……。
もうこの時点ですでに、顎痛いし。
時折、口の中でビクンと、ミュルが痙攣する。
でも、ミュルバッハ本体の方は相変わらず、ガチガチに固まって突っ立ったまんま、特に目立った反応は示していなかった。
わたしは、ミュルのペニスから口を離す。
うあ…っと声を洩らして、ミュルバッハが腹筋をビクつかせた。
「ね? ミュル……いい? それともイマイチ?」
「え? なっ……? あ?」
ミュルバッハの返答は、まったく意味不明な感じ。
でもその後、ミュルの口から洩れ出してきた息遣いは、結構激しかった。
……ふむ。悪くはないみたい。
わたしはそんな感じに結論づける。
するとミュルバッハが、きれぎれに言った
「……おまえ、な…にやってんだよ。んな、ちっくしょぉ」
いやいや。
別に「何」って言われてもね、「ナニ」ですよ、見てのとおり。
他に何をしてるっていうんだか?
まったく。
ホント、やっぱアホだなあ……ミュルは。
思わずくすりと笑いを洩らして、わたしはまた、ミュルバッハのペニスを口に含んだ。
あれー?
なんかさっきより、さらに大きくなってないか? コレ。
そしてわたしは、なかなかに苦労しながら、ミュルを奥の方まで飲み込んでいく。
吸ってみたり、舌でくすぐって見たり、くちびるで擦ったり。
そんな風に、色々と試しながら。
しばらく前から、んっ、んっと、くぐもった呻き声が、上の方から降ってきていた。
ミュルは、もたれ掛っているレンガの壁の凹凸に、指先を必死にくいこませていて、わたしはそれを視界の端で見ながら、「指、痛そうだなあ」と思ったり。
「まあ……ミュルは馬鹿だから、痛みとかには、あんまり気づかないのかもね?」とか思ったりしていた。
やがて、ミュルの腰が揺れ始める。
わたしは両手でミュルバッハの腰骨を、ぎゅっと掴んだ。
ペニスの先端は喉の奥まで達していて、ミュルの腰の動きとともに、そこがグリグリとえぐられ、えずきがこみ上げてくる。
わたしがえずく度に、ミュルは、唸るように何か言いながら腰を引こうとするけれど。
喉の痙攣で締め付けられるのが気持ち良いのだろう、結局は、わたしの口からペニスを抜き取ってしまうことができないまま、また腰を揺らし始める。
気づくと、ミュルバッハの息遣いは、ものすごく荒くなっていて、もう先から、堪えきれなくなった吠え声を、幾度も洩らしていた。
あ、ミュル。そろそろイクのかな……? って。
そう思った瞬間だった。
わたしの肩と頭を掴んで、ぐっと腰を引くと、ミュルは自らを引き抜いた。
突然のことに、わたしは目を瞠って、ミュルを見上げる。
ミュルは肩で息をしながら、きつくくちびるを噛みしめていた。
「な、に……ど、したの?」
手の甲で、くちびるの周りの唾液を拭いながら、わたしはミュルに訊く。
グッと、ひとつ息を飲んでから、ミュルが口を開いた。
「んな……そ、んなところに、出すかよ」
そして、片手でわたしをひょいと抱え上げる。
ミュルのもう片方の手は、わたしのジーンズを引き剥くように脱がせていた。
それはかなり乱暴で無理やりだったから、ミュルの無骨な指先に一緒に引っかかっていたショーツが、ブツッと、なんかいやーな音を立てた。
多分、ショーツのレースの縫い目が切れた音だと思う……。
そしてミュルは立ったまま、足首でもたつく自分のジーンズと下着と靴を、踏みつけるようにして脱ぎ捨てた。
わたしは下半身だけ裸にされて、ベッドの上に放り投げられる。
ミュルバッハがシャツを脱ぎ捨てた。
……右肩に、百合の紋章と蛇のタトゥー。
前腕の産毛が、かすかな光に透き通っている。
そして、マットレスの上へと膝を載せ、ミュルがわたしの上に乗りかかってきた。
他人の家のことは言えない。
わたしのベッドもチャチな安物で、しかもホントにちいさなシングルベッドだ。
普段の重さにプラスして、巨大な岩みたいな男にも上がってこられ、可哀想なベッドは、キィと甲高い悲鳴を上げる。
「もう、結構濡れてんだろ? ゲイシャガール」
ミュルがいつになく饒舌に問いかけた。
熱く火照ったわたしの脚の付け根に、ミュルの指が、じゅくりと、めり込む。
「ふっ、う…あっ、ああっ」
とんでもなくせつない鳴き声が洩れ出てきたのは、わたしのくちびるからだった。
それ以上鳴かないように、わたしは拳を口にきつく押し当てて、指を噛みしめる。
「おしゃぶり」だけで、こんだけ濡らしてんのかよ? このエロセクサロイドが……とかなんとか。
そんなセリフが出てきやしないかと予想してみたけど、ミュルは、またいつもみたいに、ムッツリと口をつぐんでしまった。
ぐちゅぐちゅと、陰部をかき回される音。
そして、ミュルバッハが腕を動かすたびにベッドが細く軋む音が、ちいさなわたしの部屋をいっぱいにする。
ただ表面をまさぐっているだけで、ミュルの指先は、一向に奥の方へ入ってこなかった。
それでも……。
そうやって外側を触れられているだけでも、わたしは、どんどんと快楽の階段を駆け上がっていく。
「…ナナミよぉ、お前」
アホっぽいけど、ごく低く抑えた声で、ミュルが言う。
語尾が少しかすれていた。
「い…つもはよぉ、挿れろ挿れろって、急かしやがるくせ…して。今日はなん…だよ? あんな、しおらしい真似なんかしやがっ…て」
まだ挿れてもいないうちから、いっぱいいっぱいのミュルの声。
……ああ、そうだった。
さっきは寸止めだったけ、って。
そんなことをぼんやりと思わないでもないけど。
わたしの方も、もう結構せっぱつまって、どうしようもなくなってきた。
「も…う、欲しくねえのかよ、『俺の』はよ?」
あふれ出した粘液でグズグズにになったわたしの襞を弄びながら、ミュルが噛みつくようにして耳もとで囁いた。
わたしは、ふるふるとかぶりを振る。
「ほしっ、すごく、ほしかっ……すごく、挿れてほしかった…けど」
「あ? 『けど』なんだよ、ゲイシャガール?」
「がま、んして、ミュルのこと、しゃぶ…ったの」
「な…に、言ってやがんだ、おまえ」
そう呟くと、ミュルは充血しきったわたしの陰核に指先で触れた。
突き上げる痺れに、思わず息を飲む。
「みゅ、る? ……った? …かった?」
「ん? なんだって?」
「よ…かった? あれ、きもちよか…た?」
「ったく…なんなんだよ、今日は、いったい」
ミュルが、苛立っているような可笑しがっているような声を上げる。
そして、
「ねごとはなあ……ねてから言いやがれ…ってんだよ」
というミュルの声とともに、突如、ベッドが盛大に軋んだ。
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