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20 よっこいしょっと。 はなはだ色気のない掛け声を小さく洩らして、わたしはミュルのベルトを引っ張った。 身体と同じにゴツいバックルが、ガチャガチャとやかましい音を立てる。 まったく、コイツって、何もかもがおっきくて無骨だ。 ジーンズのボタンフライをブチブチと開く。 中がパンパンに張ってるから、ひどく外しにくかった。 そして、下着ごと、ミュルのジーンズを膝まで引き下ろす。 ほぼ完全に勃起しているミュルバッハのペニスが、一部分も隠れることなく露わになった。 その根元を両手で支えて、ゆっくりと先端に向かって舌先で舐め上げる。 「ふぇ? なっ…?」 ミュルバッハが、間抜けた声を上げる。 そして、何かを飲み下すように喉を鳴らした。 力加減を変えながら、何度か舌を上下させて様子をうかがうけれど、ミュルはくちびるを噛み締めて身体を固くしたままだった。 うーん。 あんま、良くないのかな……? ミュルに「これ」したことって、そういえばなかったっけ。 くちびるで先端を啄みながら、わたしはミュルの顔を目線で見上げる。 ほとんど瞼を閉じて、苦しげにすら見えるような表情。 肩が、呼吸に合わせて小さく上下していた。 ……えー。 どうなんだろうなあ。 感じてる? のかな。 そもそも、フェラ自体が久しぶりすぎてなぁ……というか。 実のところ、わたし、これってあまり自信ないんだよね、テクニック的に。うん。 しっかし、大きすぎて舐めるのも大変なのだが。 ゆっくりと、ミュルバッハの先端部分を咥え込んでいく。 歯が当たらないように口を大きく開けて、舌を絡めた。 あ……。 もうこの時点ですでに、顎痛いし。 時折、口の中でビクンと、ミュルが痙攣する。 でも、ミュルバッハ本体の方は相変わらず、ガチガチに固まって突っ立ったまんま、特に目立った反応は示していなかった。 わたしは、ミュルのペニスから口を離す。 うあ…っと声を洩らして、ミュルバッハが腹筋をビクつかせた。 「ね? ミュル……いい? それともイマイチ?」 「え? なっ……? あ?」 ミュルバッハの返答は、まったく意味不明な感じ。 でもその後、ミュルの口から洩れ出してきた息遣いは、結構激しかった。 ……ふむ。悪くはないみたい。 わたしはそんな感じに結論づける。 するとミュルバッハが、きれぎれに言った 「……おまえ、な…にやってんだよ。んな、ちっくしょぉ」 いやいや。 別に「何」って言われてもね、「ナニ」ですよ、見てのとおり。 他に何をしてるっていうんだか? まったく。 ホント、やっぱアホだなあ……ミュルは。 思わずくすりと笑いを洩らして、わたしはまた、ミュルバッハのペニスを口に含んだ。 あれー?  なんかさっきより、さらに大きくなってないか? コレ。 そしてわたしは、なかなかに苦労しながら、ミュルを奥の方まで飲み込んでいく。 吸ってみたり、舌でくすぐって見たり、くちびるで擦ったり。 そんな風に、色々と試しながら。 しばらく前から、んっ、んっと、くぐもった呻き声が、上の方から降ってきていた。 ミュルは、もたれ掛っているレンガの壁の凹凸に、指先を必死にくいこませていて、わたしはそれを視界の端で見ながら、「指、痛そうだなあ」と思ったり。 「まあ……ミュルは馬鹿だから、痛みとかには、あんまり気づかないのかもね?」とか思ったりしていた。 やがて、ミュルの腰が揺れ始める。 わたしは両手でミュルバッハの腰骨を、ぎゅっと掴んだ。 ペニスの先端は喉の奥まで達していて、ミュルの腰の動きとともに、そこがグリグリとえぐられ、えずきがこみ上げてくる。 わたしがえずく度に、ミュルは、唸るように何か言いながら腰を引こうとするけれど。 喉の痙攣で締め付けられるのが気持ち良いのだろう、結局は、わたしの口からペニスを抜き取ってしまうことができないまま、また腰を揺らし始める。 気づくと、ミュルバッハの息遣いは、ものすごく荒くなっていて、もう先から、堪えきれなくなった吠え声を、幾度も洩らしていた。 あ、ミュル。そろそろイクのかな……? って。 そう思った瞬間だった。 わたしの肩と頭を掴んで、ぐっと腰を引くと、ミュルは自らを引き抜いた。 突然のことに、わたしは目を瞠って、ミュルを見上げる。 ミュルは肩で息をしながら、きつくくちびるを噛みしめていた。 「な、に……ど、したの?」 手の甲で、くちびるの周りの唾液を拭いながら、わたしはミュルに訊く。 グッと、ひとつ息を飲んでから、ミュルが口を開いた。 「んな……そ、んなところに、出すかよ」 そして、片手でわたしをひょいと抱え上げる。 ミュルのもう片方の手は、わたしのジーンズを引き剥くように脱がせていた。 それはかなり乱暴で無理やりだったから、ミュルの無骨な指先に一緒に引っかかっていたショーツが、ブツッと、なんかいやーな音を立てた。 多分、ショーツのレースの縫い目が切れた音だと思う……。 そしてミュルは立ったまま、足首でもたつく自分のジーンズと下着と靴を、踏みつけるようにして脱ぎ捨てた。 わたしは下半身だけ裸にされて、ベッドの上に放り投げられる。 ミュルバッハがシャツを脱ぎ捨てた。 ……右肩に、百合の紋章と蛇のタトゥー。 前腕の産毛が、かすかな光に透き通っている。 そして、マットレスの上へと膝を載せ、ミュルがわたしの上に乗りかかってきた。 他人(ヒト)の家のことは言えない。 わたしのベッドもチャチな安物で、しかもホントにちいさなシングルベッドだ。 普段の重さにプラスして、巨大な岩みたいな男にも上がってこられ、可哀想なベッドは、キィと甲高い悲鳴を上げる。 「もう、結構濡れてんだろ? ゲイシャガール」 ミュルがいつになく饒舌に問いかけた。 熱く火照ったわたしの脚の付け根に、ミュルの指が、じゅくりと、めり込む。 「ふっ、う…あっ、ああっ」 とんでもなくせつない鳴き声が洩れ出てきたのは、わたしのくちびるからだった。 それ以上鳴かないように、わたしは拳を口にきつく押し当てて、指を噛みしめる。 「おしゃぶり」だけで、こんだけ濡らしてんのかよ? このエロセクサロイドが……とかなんとか。 そんなセリフが出てきやしないかと予想してみたけど、ミュルは、またいつもみたいに、ムッツリと口をつぐんでしまった。 ぐちゅぐちゅと、陰部をかき回される音。 そして、ミュルバッハが腕を動かすたびにベッドが細く軋む音が、ちいさなわたしの部屋をいっぱいにする。 ただ表面をまさぐっているだけで、ミュルの指先は、一向に奥の方へ入ってこなかった。 それでも……。 そうやって外側を触れられているだけでも、わたしは、どんどんと快楽の階段を駆け上がっていく。 「…ナナミよぉ、お前」 アホっぽいけど、ごく低く抑えた声で、ミュルが言う。 語尾が少しかすれていた。 「い…つもはよぉ、挿れろ挿れろって、急かしやがるくせ…して。今日はなん…だよ? あんな、しおらしい真似なんかしやがっ…て」 まだ挿れてもいないうちから、いっぱいいっぱいのミュルの声。 ……ああ、そうだった。 さっきは寸止めだったけ、って。 そんなことをぼんやりと思わないでもないけど。 わたしの方も、もう結構せっぱつまって、どうしようもなくなってきた。 「も…う、欲しくねえのかよ、『俺の』はよ?」 あふれ出した粘液でグズグズにになったわたしの襞を弄びながら、ミュルが噛みつくようにして耳もとで囁いた。 わたしは、ふるふるとかぶりを振る。 「ほしっ、すごく、ほしかっ……すごく、挿れてほしかった…けど」 「あ? 『けど』なんだよ、ゲイシャガール?」 「がま、んして、ミュルのこと、しゃぶ…ったの」 「な…に、言ってやがんだ、おまえ」 そう呟くと、ミュルは充血しきったわたしの陰核に指先で触れた。 突き上げる痺れに、思わず息を飲む。 「みゅ、る? ……った? …かった?」 「ん? なんだって?」 「よ…かった? あれ、きもちよか…た?」 「ったく…なんなんだよ、今日は、いったい」 ミュルが、苛立っているような可笑しがっているような声を上げる。 そして、 「ねごとはなあ……ねてから言いやがれ…ってんだよ」 というミュルの声とともに、突如、ベッドが盛大に軋んだ。
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