288人が本棚に入れています
本棚に追加
●21●
21
下から、中に押し入ってくる熱い塊。
腕を回して、わたしはミュルの大きな肩にしがみついた。
熱っぽいごつごつした胸板が、つめたい乳房を温めてくれる。
知っている匂いがする……と。
そう思った。
よく知っている匂い、よく知っているぬくもり。
ゆっくりと、ごくゆっくりと、ミュルは膣内を進んでいく。
それが自分の最奥に到達するのを、息を詰めるようにして待ちながら、わたしは、ミュルバッハの顎先を舌で舐めた。
伸び始めている髭の先が、チクチクと舌を刺す。
ふと、わたしの中の熱く大きなものの動きが、途中で止まった。
ちいさな指の傷から血がふつふつと湧き出すみたいに、ミュルと触れ合っている内側の部分からは、快感が滲んで溢れてくる。
頭の中が真っ白になり、わたしはミュルの顎に歯を立て、夢中で甘噛みした。
わけわかんないよ……。
……もう、我慢できない。
「はやく、みゅる……て、き…て、おく、」
動きを止めたままのミュルに、わたしは、とうとうねだり声を上げた。
「…っと、もっと、いっぱい…して」
「だ…から…よぉ、せかすなって、ナナミ」
ミュルの肩が、ぶるりと震える。
「んな、無理い…うな、もっていかれっちまうだろ…が」
「いいの、みゅる……いいから」
両腕をさらに伸ばして、わたしはより深く、ミュルの背中を抱きしめた。
「いって…いいから、きて……はや、く、もっとおく」
こんちくっしょう……と。
なぜだか悪態を洩らして、ミュルが、ズクリと最奥へ打ち当てた。
その甘鈍い打撃に、わたしが悲鳴を上げると同時に、ミュルの身体が激しく痙攣する。
どくどくとしたミュルのペニスの脈動と、じわりと染み出してくる熱のようなものが、わたしの内側を痺れさせた。
ミュルは、奥深くに自分自身を埋め入れたまま、ピクリとも動かない。
わたしの方も、もう今にも達しそうになっていた。
吐精を続けるミュルへと、夢中で身体を擦りつけて腰を揺らす。
そして、ガジガジとミュルの顎を齧りながら、
「……みゅる、すき、すき」と、熱に浮かされた声で洩らした。
とはいえ、もはや何を口走っているのかは、自分自身、多分ほとんど解ってはいなかったと思う。
「え……?」
わたしを押しつぶさないよう、腕立て伏せめいてベッドに両腕をついていたミュルバッハが、ハッと顔を上げた。
「お…い、ナナミ、お前、いま、なんか言ったか? なんて言ったよ」
その瞬間、わたしはオルガスムスに達した。
仔猫めいて細い声を上げて、ミュルの硬い身体にしがみつく。
内襞が痙攣して締めつけるミュルのペニスは、一度射精したくらいでは、どうともならないくらい、まだ熱くて硬くて大きいままで。
わたしはもう、声を抑えようという気もなくなってしまっていて、せつなく嬌声を上げながら、ひたすらに絶頂を貪った。
ものすごくイクって……。
実は、結構、難しいのかも。
エクスタシーの波が、少しずつ遠ざかる中。
ミュルバッハのねこっ毛の髪に額をくすぐられながら、わたしはそんなようなことを、ふと思う。
もしほんのすこしでも、どこかに何か不安があったなら。
きっと夢中になりきれなくて。
一番先まで行き着けなくて……。
どこかで「ストップ」が掛かってしまうのは、たぶん……そのせいで。
思い返してみれば。
最初から、すごく良かった。
はやくきてって、もっと奥まで…って。
そう言わずにはいられないくらいに。
ミュルとは。
……足りない。
まだ、ぜんぜん足りないよ。
「ミュル……ま…た、イク」
モゾモゾと身をよじり、わたしは勃起しきった乳首をミュルの腹筋に擦りつけた。
「…して、もっと、もっとして」
大きな掌で乳房を掴まれる。
とがりきったわたしの胸の中心を、ミュルが太い親指の先で、くるくると弄んだ。
疼くような甘い刺激に突き動かされ、わたしはまた、ミュルの顎先に牙をむくようにして歯を立てる。
そして、「いい…すごく、ミュル、いい」と わたしが声を震わせると、ミュルバッハが、腰を振り始めた。
手前から、奥へとゆっくりと擦り上げて……。
最後はねじ込むようにして、奥を突き上げられる。
わたしのくちびるから洩れ出す喘ぎ声は、いつになく抑えが利かないものになっていて。
でも、そんなものなど消し去ってしまうかのように、ふたりを載せた小さなベッドは、気の毒なほどに揺れて軋む。
あ、ベッド、こわれたら……どうしよう。
とかって、一抹の不安がよぎるけれど。
でも、そんなものは、すぐにどこかに消し飛んでしまう。
「っとに…おまえ……コレ…好きだな」
わたしを揺さぶりながら、ミュルが喉の奥にこもった声を出す。
「だ…って、きもちい…」
とめどなくこみ上げる溜息と喘ぎの合間をぬって、わたしはミュルに応じた。
「きも…ちいいの、ミュルの、これ」
「ん」と。ごく短く、ミュルは唸り声で返事をする。
いつもみたいに。
「…ゅるは? ミュル、は?」
「あ? なんだって?」
「みゅる…は? きも…きもち、い…い?」
するとミュルバッハが、溜息とも呆れ声ともつかない息をひとつ吐いた。
そして、「アホ」と舌打ちをする。
「んなも…ん、メチャクチャ…いいに決まってんだろうがよ」
というやいなや、熱くて硬いペニスで、ミュルが深々とわたしを穿った。
下腹部に打ち付けられたミュルの腰が、パシンとひどく乾いた音を立てる。
じくじくずくずくと、身体をむしばむような快感に襲われながら、わたしは。
……ああ、アホのミュルに「アホ」とか言われちゃったなあ。
なんて、そんなことを思うともなく思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!