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「今日、病院行こう」
「診てくれるところあるかな。私未成年だし、土曜日だし」
「あたし知ってるよ、近くで診てくれるとこ」
「……なんでそんなの知ってるの」
「まあまあ。ていうか菜摘、財布持ってんの?」
「一応。でも足りなかったら、……お母さんに話す」
「そっか。もうちょっとしたら出かけようよ。歩ける?」
「うん。……一緒にいてくれるの?」
「当たり前じゃん」
私は、マチの胸に顔をうずめた。
温かい。
彼との時は、もちろん素肌の体温は感じたけれど、熱い相手と冷たい自分の、お互いの体の境界だけがはっきりと意識されて、ずっと辛かった。
でも今は服越しだというのに、まるで二人の体温がひとつに溶け合うようで、言葉にできないくらい気持ちがいい。
「マチ。私、マチのこと、好きなところも嫌いなところもあるの」
「ん」
「嫌いなのに好きって、変かな」
「変かもね。でも、あたしも変だし」
微笑の振動が互いに伝わる。
痛かった。怖かった。辛かった。
もしかしたらこの先、昨夜と同じか、もっと嫌なことがあるのかもしれない。
世の中には、辛そうな人がたくさんいる。
どんなに私の幸福を願ってくれる人がいても、時には、どんなにあがいても決して逃れられない痛みもあるのだろう。
私はその時、どう受け止めて、どのように泣くのだろう。
窓の外の日が、段々と高くなっていく。
できることなら、こんな風に、陽だまりのような温もりの中で泣きはらしたい。
マチの手が、子供みたいに丸まった私の背中をさする。
このまま時間が止まってしまえばいいのにな、と思った。
終
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