In Other Words....

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君と出会ったのは僕が中学2年生の頃だったね。 当時の僕はとっても内気で、帰宅部で、塾に通って勉強ばかりしてた。学校に友達はいなかったし、あの頃は人生で一番暗い時期だったかも。それにホラ、僕ちょっといじめられてたしね。女子に。 僕ってさ、ちょっとかわいい顔してたじゃん? 自分で言うな? はいはい。でもまぁ、それで結構モテたわけさ。でも、僕ってば内気で勉強ばっかしてたから、恋愛とかそういうの全然興味ないわけ。で、スクールカーストの頂点の女王サマに告白されて、にべもなく断って、そっから目付けられちゃってさ。「かわいくない」「調子乗ってる」とまぁ、そういうわけ。 ある日、僕は近所の公園に呼び出されて、……どうせろくでもない事だろうから無視してたんだけど、運悪く下校道で不良グループの女の子に見つかっちゃったんだよね。それで公園まで連れていかれたの。そこからはまぁ、何だろ。胃の中がひっくり返るくらい乱暴されてね。情けなかったよ。女の子相手にさ、手も足も出ないわけ。当然か。僕は運動も全然してこなかったし、ひょうろひょろのもやしっ子だったから。 そこに現れたのが君だったね。「荒高(アラコウ)」の「ミホさん」といえば、中坊の僕でも知ってるスーパーヤンキーさ。 でも君は他の不良少女と全然違ってたよね。群れるのを嫌ってたし、化粧も濃くなかった。ツヤツヤの黒髪をポニーテールにまとめて、白い首筋がすらりと長くて。冷たいツンとした表情でさ。とっても綺麗だった。 君が公園に入って来るだけで、僕を痛めつけた女の子たちは震えあがってたよ。 地面から見上げる君はどこか寂し気で、本当に綺麗で、僕と同じ独りぼっちだった。だからかな、君は僕を助けてくれた。 覚えてる? 君は女の子たちを真っすぐ見つめて、笑うでもなく、睨むでもなく、感情の無い声で一言、 「なにしてるの」ってそれだけ言ったんだよ。触れると皮膚が裂けるほど冷たい声だったよね。女の子たちはガタガタ震えてた。君がペタンコの制カバンを静かに手放してこっちに歩いてくると、女の子たちは一目散に逃げ出したね。 「大丈夫?」って君が膝をついて、手を差し伸べてくれたのは忘れられない。僕あのとき泣いちゃったんだよね。ホント恥ずかしい。夕方、公園のベンチで君とふたり。ぼんやり空を見上げる君と、その隣で泣きじゃくる僕。ふふ。もう、笑わないでよ。ばかだなぁ。 君は何も言ってはくれなかったけれど、僕にはそれがありがたかった。中坊の僕から見れば、強くてカッコいい、大人のお姉さんだもん。そばにいてくれるだけで嬉しかった。 そういえば全然話変わるけど、ミホさんっていい匂いするよね。ううん。今の話じゃないよ、昔からずっと。風に香る君の匂い。中学生とは違う、大人の女性の匂い。 ……。 あ。やだやだ、そんな目で見ないで。 だって思春期の男の子だもん、仕方ないじゃん! おほん!  まぁ君は僕の初恋の人で、青春の全部だってこと。
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