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ツポレフは最初から理解していた。
そう、『正面きってリーエと戦えば、自分に勝ち目はない』と。
バシ……ィィ……ン!
通路に、鞭の当たる激しい音が響いている。
その衝撃で床のコンクリートに亀裂が走り、砕けた破片が宙を舞う。
「どうした『ツポレフ』! 怖気づいたか?! ああ?さっきの気合は何処に行った? さっさと出てくるがよい! 粉微塵に切り刻んでくれるわ!」
「くっそ……! やはり『アレ』の威力は半端ねぇな……!」
倉庫の荷物に陰に身を隠し、間合いを図る。
……ま、そりゃそうだろうな。もしもオレの方がリーエより強ければ、カイザーはオレを『脅威』として生かしたまま国外に逃したりはしなかったろうし……!
ヤバいな、何とかして攻撃の糸口を探らねぇと……。
「……そう言えばよ、予選で『サウザンド』の爺ィさんに出会ったぜ? 覚えてるだろ?『狙撃屋のサウザンド』だ!」
喋りながら、素早く場所を移動する。
「はん?何の話だ。それは陽動作戦のつもりか?」
チラリ、とリーエが背後を伺う。
「はは……連れねぇなぁ!子供の時は一緒に遊んでもらったろうが! 覚えているかい?あの爺ィさん、オレの事を昔、『若造』って呼んでたろ? ……一応それでも『王子』だったてのによ!」
……何とかして、リーエの背後に回り込むんだ!
ツポレフは荷物の間を掻い潜りながら、背後の方へと移動を続ける。
「……知らんな、そんな話。『王子』だと? 貴様はそんな昔の栄光に何時まで縋ってるんだ? 時間は前にしか向いておらんぞ」
……ああ、そうかもな。『オレ』はただ、ズルズルと昔の栄光を夢見てるだけなのかもな。アンドリューと共にカイザーを倒せれば、捲土重来もなるかと……いや、所詮は『過ぎた夢』、か。
「……悪いな、『後ろ向き』でよ」
よし、獲った! リーエの背後だ!
ツポレフの指に力が籠もる。
「喰らえや!『鋼鉄の横時雨』っ!」
リーエの背中目掛けて、108発の『ダーツの雨』が横殴りに降り注ぐ。
だが、リーエに油断はなかった。
バッ……シ……ィィ……ン!
鞭のしなる乾いた音が耳をつんざく。リーエの背後を狙って投げつけたダーツは無惨にも弾き飛ばされ、バラバラ……と空中に乱れ散る。
「何っ!」
気づくと、そこにはまるで大蛇の如くにうねる鞭が伸びていた。
「ちっ……! 後ろにまで届くのか! どんだけ長いんだよ、その鞭は……」
リーエが、ゆっくりと後ろを振り返る。
「愚かな……。この鞭を使った時の『荊棘の舞踏』には無制限の射程距離があるのだ……甘く見られては困る」
ジロリとツポレフを睨みつけるそのコスミックブルーの瞳には、氷点下を遥かに下回る冷気を帯びていた。
「……さぁ、止めを討ってやろう」
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