集まる者たち

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 簡単な入国審査が終わると、一人に一つずつの『銀の腕輪』が渡された。今回の『挑戦者(グラディエーター)』としての証らしい。  そして各自指定された宿に荷物を置き、時間になったら市街の中心部にある闘技場へ集まるように指示された。  1000年以上前に建てられたという古い遺跡のグラウンドは、2000を超えるという『グラディエーター』で溢れかえっている。 「……。」   カイザー直参の女親衛隊長であるリーエは、その様子を貴賓席から見下ろしていた。  綺羅びやかな組紐の装飾が施された白い軍服に、光沢のある黒いゲートル。後衛として最前線に立たない事を誇示する、腰まで伸ばした長いブラウンの髪が風にたなびく。  ……いるのか『この中』に。6年前、この国を捨てて失踪した『あの男』が。 入国審査を担当した部下の報告によると『強く疑われる人物が来ている』との事ではあったが。 「ふむ……」  全体を一望出来る席から見渡すが、地面からの距離が有りすぎて『それらしい人物』を見つけるには至らなかった。 ……最初にカイザー様からこの計画を聞いた時は随分と驚かされたものだが。それでも、この国が抱える難題を解決するには最早これしか方法がないのだろう。 噂ではこの大会についてデルガネード王妃が『荒唐無稽』と強硬に反対したらしいが、『国王が賛意を示している』としてカイザー様が押しきったと聴く。 普段はカイザー様もあまりそこまで王妃に反意を示す事はないが、今回ばかりはご自身の将来にも大きく関わることだ。是非もあるまい。 そして、私自身にも……。 どう転んでも円満な決着なぞ望むべくもない話ではある。何らかの痛みを抱える結果になるだろう。それは、覚悟したつもりだ。 今はただ、カイザー様のご意志の通り……。 「……隊長、時間です」  やがて定刻となり、部下に促されてマイクの前に立つ。  リーエは透き通るような白い指をマイクに掛け、大きく息を吸った。 「……グラディエーター諸君! クォンタム王国へようこそ! 我々は君たちの戦う魂に敬意を表するものである!」  ウォォォォ!!  リーエの発声に、怒涛のような歓声が湧き上がる。 「戦え、グラディエーター達よ! 勝って、勝って、勝ち上がるがいい! その頂点に立つ者に、この国の王位が待っている!」 ドドド……!!  一斉に地面を踏み鳴らす音が、闘技場の観客席に反響する。 「……ルールは簡単だ。明朝10時に、教会が鐘を鳴らすだろう。それが開始の合図だ。『予選』は3日間で行う。『試合時間』は日の出から日の入り迄、『試合会場』はこの首都近郊の全てが対象だ。その他、グラディエーター以外の者に危害を加えさえしなければ、一切の制限はない。思い切り戦うがよい!」  それは、文字通りデス・マッチを意味している。  判定も無ければポイント制もない。殺すなりギブアップを奪うなり、とにかく『勝てばそれでよし』だ。殺す覚悟も殺される覚悟も必要で、その両方が試されると言って過言ではない。  むせ返るような2000人の熱気が貴賓席に襲いかかってくるのを、リーエは全身で感じた。自ずと、声にも力がこもる。 「各員『腕輪』を持っているな? 勝利の証として、相手からその腕輪を奪うのだ! 4日後の午前10時に、この会場に『腕輪5個以上』を集めて来るがよい。それが本戦出場の『許可証』となる! なお、全ての腕輪を失った者は即刻、国外退去だと理解して欲しい。以上、貴君らの健闘を祈る!」  そう宣言して、リーエはマイクから離れた。
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