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K測者
青空の下、人々が笑顔で街を歩いている。
監視カメラは無遠慮に、その様子を撮らえてはどこかへ送る。
送られた先のひとつ、タブレットの画面に赤い汁と小さな欠片が付着した。
飛び散るようにくっついたそれらは、血肉にも見える。
「結果は?」
「倍近くに増えました。ただ、ほとんどが表現に関するもので、優良誤認ではないかという指摘は2割ほどしか…」
「狙い通りか」
老人が、赤く汚れた口元を笑みで歪めた。
「クレームそのものの数は増えたが、正答数は減った。つまり、口数の多い無能と真の意味を理解できる有能が、互いに背を向け合っている」
言い終わると、右手に持った赤い何かにかじりつく。汁と欠片をひと通りまき散らした後で、口以上に汚れた手を画面へ近づけた。
「劣悪な労働が、民を考えぬ肉に変えた…我々の努力が実を結んだというわけだ。まさか自分たちの知能を測られているとは、夢にも思うまい」
しわだらけの手で、汁と欠片をこすりつける。
人々の笑顔が、同じ色へと変わっていく。
「よりよい広告……我々にとって……それを作り出すために、これからもクレームという名の申告を受けつけていくとしよう。あと少しで洗脳は完了する! クククッ、ハーッハッハッハッ!」
老人は高らかに笑う。それを聞いた何十人もの男たちが、一斉にひれ伏した。
彼らの下にあるカーペットには、極小の人型ピクトグラムが無数に描かれている。真紅に染め上げられた中で逃げ惑うその模様は、まさに地獄絵図といえた。
地獄に響き続ける、老人の笑い声。
止める者は、この場にはいない。
Fin.
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