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「いやー! 感動したねー!」
卒業式が終わり、卒業生が教室に戻る頃、真湖は大きな伸びをしながらそう叫んだ。泣いた烏がもう笑ったと、乃愛琉はくすり笑った。
「ばっかじゃねー、お前」
と、後ろから剣藤阿修羅が真湖の頭を小突いた。阿修羅は真湖の幼馴染みで家が隣同士の腐れ縁。
「あっしゅ! なにすんのよ!」
真湖は小突いた阿修羅の手を掴まえようとして空振った。
「今時、小学校の卒業式で号泣するヤツいねーよ。なまら目立ってたぞ、お前」
ちなみに、「なまら」というのは、北海道弁で「とても」とか「非常に」という意味の方言である。
「うっさい! 素直に感動して何が悪いのよ?小学6年間の思い出に浸ってたのよ」
「だってさ、別に学校バラバラになるわけじゃないし、6年間って言っても、お前低学年のこととかまともに覚えてないべ」
「そんなことないもん。それに、先生とはここでお別れじゃん」
「学校近くだから、なんぼでも遊びに来れるけどな」
「あっしゅには、女の子のセンチメンタルは分かんないのよ」
真湖はあっかんべーした。
「わからなくて結構。俺は男だしなー」
阿修羅はそう言って、丸めた卒業証書をくるくるさせて先に歩き始めた。
「おれーとかって、格好つけちゃって、もう」
小学6年は丁度過渡期で、男子は「僕」から「俺」になんとなく変わる頃。先に「俺」と言えるようになった方が勝ちみたいな雰囲気が男子にはあった。女子からすると、昨日までの「ガキ」が背伸びしているようにしか見えないから、気に障るのである。
「ちょっと、止まらないで。後つっかえてるんだから」
今度は今野灯が真湖の背中を突いた。灯もやはり真湖と幼馴染みで近所住まいなのだが、ツン属性の灯とはあまり真湖は相性がよろしくないらしく、乃愛琉が見るにこの二人はいつもこんな感じである。かと言って、喧嘩するほど仲が悪いわけではなく、なんとなくつかず離れずいるのが不思議なのではあるのだが。
「あ、ごめん」
「小学生の卒業式でよく泣けるわね」
灯も真湖に捨て台詞を吐いて横を通り過ぎた。
「散々言われたね」
真湖は舌を出して苦笑いした。けれど、さほど効いた風はない。
「だって、実際目立ってたもの」
多分、全校生徒の注目の的になっていたとまで言いかけたけれど、乃愛琉は気を遣ってそこまでは言わなかった。
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