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短い春休みを終えて、真湖達は中学校の入学式に臨む。
真湖達が通うことになる学校は、石見沢市立西光中学といい、石見沢駅前に建つ中学校で、歴史も古い。全学年で353名。各学年4クラス。陽光小、石見沢北小、石見沢西小、石見沢中央小の4つの小学校の学区が集まる中学である。但し、全校生徒が西光中学に編入されるのは真湖たちの在校していた中央小と西小だけで、他2校は学区によって別の中学に進学する生徒もいた。
「こらぁ! そこ喋らない! もう小学生じゃないんだぞ!」
体育教師かと思われる、全身ジャージの先生が大声を張り上げた。校長の挨拶の最中である。
「なにあれ?」
「こぇぇ」
中学最初の洗礼を受けてざわつく一年生を尻目に、上級生達は黙って校長の話を聞いていた。さすがに中学になると違うものだなと真湖は感心するばかり。新品の制服はまだ慣れないため、少し着心地が悪かったけれど、自然に背が伸びるものであると感じた。
幸いというか、真湖たち4人はまた同じクラスだった。玄関前に張り出されたクラス編成表を見て、真湖と同じクラスだと気がついて灯はあからさまに嫌な顔をしたが、阿修羅もまた同じだと知って、また表情を変えた。その表情に気がついたのは乃愛琉だけだったが。
そういうわけで、入学式では小学校の時と変わらず真湖の後ろは乃愛琉で、少し前に灯がいるという並びにはあまり違和感はなかった。
「1年3組担任、英美佐恵先生です」
式が始まる前に教室で自己紹介していた先生が名前を呼ばれて一礼した。あまり冴えない感じの女の先生だなというのが真湖の第一印象だった。
「28歳独身、国語を担当します」
教室ではそのように話していたが、28歳という年回りが、独身としてどうなのかは真湖はあまりよく分からなかった。ただ、あまりの気迫のなさに、若干先が思いやられそうな予感だけはした。
入学式は滞りなく終わり、やっぱりなんとなく4人が固まる。
「あっしゅどうすんの?」
「野球部見学に行ってくるわ」
「じゃあ、あたしたちは合唱部見に行ってこようかなー? ね、乃愛琉?」
乃愛琉は黙って頷いた。
「灯、どうすんの?」
阿修羅がふと灯に振ると、灯は阿修羅と乃愛琉を見比べるようにしてから、
「帰る」
「えー。じゃあ、一緒に合唱部見に行こうよー?」
と、真湖が無理に灯の手を引いた。
「すぐ終わるってば」
「あ。そしたら、みんなで野球部見に行ってから、合唱部見に行かない?」
乃愛琉がうまいこと折衷案を出した。
「俺はそれでも構わねぇけど?」
灯もそれならと頷いた。真湖だけはちょっと不満そうな顔をしたけれど、結局は全員で野球部の見学を優先することになった。
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