第1コーラス目「合唱!」

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「まあ、あんまりがっかりしなさんな。合唱が好きなら、さっき言ったとおり、夏にはコンクールも出られるし、校内の合唱コンクールは今年も予定されてるしな」  あまりの真湖のがっかりさ加減に、その教師も同情をした様子だった。 「わかりました、ありがとうございます」  灯はそう言って、その教師に礼をした。それから阿修羅と玄関に向かおうとした。けれど、阿修羅はそれに着いていこうはせず、 「ほら、真湖、行くぞ」  と、一旦真湖の所に戻って、肩をポンと叩いて、促した。 「すんません、ありがとうございました」  真湖がゆっくりと動き出すと、阿修羅は灯に倣って教師に礼をした。最後に乃愛琉も同じように挨拶してから4人で玄関に向かう。 「まあ、元気出せ。しょっぱなから夢破れたのは悔しいかもしんねぇけど、仕方ないじゃん」 「指導する先生がいないんじゃね」 「夏にはやれるっていうし、コンクールには出られるんだから。ね。真湖ちゃん」  落ち込んだ風の真湖に、3人がそれぞれに声を掛ける。と、突然真湖が振り返って、さきほどの老教師に訊いた。 「せんせー! 放送室ってどこですか?」 「は? 放送室かい? この廊下をずっと行った右にあるよ?」 「ありがとうございました!」  そう言って、真湖は走り出した。 「おい、真湖、どうすんだよ? 放送室? ……って、まさか、おい!」  阿修羅は今一瞬頭に浮かんだ光景を思い出して焦って、真湖を追いかけ始めた。残った灯は再度教室に頭を下げて、彼ら3人の様子を伺っていた。 「ちょっと、真湖ちゃん?」  乃愛琉は呆気にとられたけれど、真湖を追いかける阿修羅に着いて廊下を進んでいった。真湖は駆け足で放送室に向かった。言われた通り、放送室は右側にあった。 「失礼します!」  真湖は勢いよく放送室のドアを開いた。中には数名の放送部員と思われる先輩方がいたが、皆一様に目を見開いて驚いた顔をした。 「マイクお借りしますね!」  放送室にずかずかと入ると、真湖は見覚えのあるスイッチに手を伸ばした。小学校の放送室と同じ機器だったから、すぐに分かった。 「おい、真湖、待て!」  続いてドアを開けた阿修羅が放送室に駆け込んだ時には、すでに遅かった。 「1年3組煌輝真湖です! 合唱部を作ります! 歌うの大好きな人集まってください! よろしくお願いいたします!」  その声は、大音響で校内及び校庭にいる在校生と教員全員に響き渡った。
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