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第4コーラス目「先輩!」
「わたしは、現瞳空。合唱部はつくらない方がいいわ。これは、忠告……というより、お願いに近いかも知れないわね。つくらないでちょうだい」
「え?」
真湖は先輩にいきなりそんなことを言われて、硬直した。
「ど、ど、ど、どうしてですか?」
真湖は思いっきりどもりながら現に尋ねた。
「だって、Nコンに出たいじゃない。合唱部をつくったら、Nコン出られないもの」
「え? どういうことですか? あたしだって、Nコンに出るために合唱部つくりたいんです!」
真湖は混乱した。Nコンに出たいから、合唱部つくらない方がいい? むしろ、Nコンに出たいから合唱部をつくりたかったのだ。
「合唱部つくっても、人は集まらないからよ。集まらなかったら、Nコンにだって出られないじゃない?」
「合唱部なかったら、Nコン出られないんじゃないですか?」
現は、一息溜息をついて、
「あのね。担任から聞かなかった? あれだけの騒ぎ起こしたんだから、当然聞いてると思ったわ」
「え? 何をですか?」
「あのね、うちの学校は毎年、Nコン出場するために、各クラスから男女1名づつ強制的に集められるの。各学年4クラスづつあるから、合計で24名ね。それでNコンに出場するのよ。そうじゃなかったら、10名も集まらないわ。実際、わたしが1年生の時は、6人しかいなかったんだから」
現が1年生の時というと、ちょうど廃部になる前だったのだろう。
「せ、先輩、合唱部だったんですか?」
「そうよ。あ……もしかして、あなた、煌輝先輩の……妹さん?」
「いえ、従妹です。翔平にいちゃん知ってるですか?」
「ええ。わたしが入学した時にはOBだったけど、時々指導に来てくれてたから。そっか……名前聞いてすぐに気がつけばよかった。でも、だったら、先輩からその辺聞いてないの?」
「翔平にいちゃんとは、Nコンに出場して全国大会に行くって、約束しました」
「あはは」
現は思い切り笑った。
「先輩らしいわね。でも、煌輝さんには悪いけど、今のこの学校じゃあ、全国は無理よ」
「そんなのやってみなきゃ分からないじゃないですか!?」
「分かるの」
「どうしてですか?」
「あのね……」
現は一息ついてから、
「中学校は、小学校と違ってね、先輩後輩っていうのがあってね。……わたしはそんなに気にしないけど、そういう口のききかたしたら、あなたこの先困ることになるわよ」
と、溜息ついた。
「あ、すみません」
「わかったわ。じゃあ、今日の放課後、音楽室に来てちょうだい。詳しく話してあげるわ」
最初は随分高圧的に見えた現も、今は温和な顔になっていた。いきなりの言葉に真湖が反発していたせいでそう見えていただけなのかも知れないが。
「あ……。わかりました。よ、よろしく、お、おねがいします!」
真湖は使い慣れない敬語を使って、現に頭を下げた。現はふらりと回れ右して、廊下を去って行った。
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