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第2コーラス目「募集!」
「相変わらず無茶苦茶だなお前」
職員室でこってりしぼられた後、4人は下校の途に着いていた。
「ばっかじゃない。なんでわたしまで怒られなきゃならないのよ」
阿修羅と灯が揃って真湖を責めた。
「ごめ~ん。なんか、急に叫びたくなって」
と、真湖は二人に謝るが、全く悪びれる様子はなかった。
「しかも、なんで俺のマネするかねぇ……」
と、阿修羅は遠い目をした。
それは、ついさっき、真湖の肩を叩いた時に思い出した光景のこと。小学5年の時に阿修羅が友達数名と放送室を占拠した時のことだ。悪戯心で放送室に忍びこみ、言いたい放題やったのだった。もちろんその顛末は真湖たちも知っていて、最終的に校長先生にこっぴどく怒られたのだが。
「なんか、急にあの時のこと思い出しちゃってさー」
確かに阿修羅もその時のことを思い出していた。そして、『全校放送で流しちゃえばいいんじゃね?』なんてことを軽々しく思ったことも確かではあった。だから阿修羅もそれ以上は真湖を責める気にはなれなかった。しかし、それはあくまでも妄想であって、実際にやるようなことではなかったはず。真湖が放送室に向かって走り出した時、嫌な予感はした理由はそこだった。
「でもさ! これで、合唱部員集められそうじゃん?」
「だから、合唱部は無理だって、さっき先生に言われたばかりだべ」
担任からは、部活の新設は学生の自治ではなく、教職員の判断だと言われたのだ。
『だって、よく、部活って、5人揃えばできるとか聞きますよね?』
それでも、真湖は食い下がった。
『それは、高校生とかの話でしょ? 少なくともこの中学校では、そういう規則はありませんから』
と、やる気のなさそうな担任はけんもほろろにそう言った。
「でも、やりたい!って人が沢山集まったら、先生たちだって止められないんじゃない?」
「お前、どんだけポジティブなんだよ。入学早々あんな問題起こしておいて、そう簡単に認められるわけないじゃん」
さすがの阿修羅も呆れた。
「まあさー、とりあえず、4人は大丈夫なんだからー、あと5~6人くらい集まってくれないかなー?10人くらいいたら、さすがに先生もOK出すんじゃないかなー?」
「4人って、誰のことよ?」
灯が聞き逃さなかった。
「えー、誰って、あたしと乃愛琉と灯とあっしゅ」
指折り数えながら、真湖が当たり前のように言った。
「だから、わたしはできないって言ったっしょ!?」
「俺は野球部だっつーの」
乃愛琉が苦笑いした。
「いいじゃーん。頭数揃えるだけだからー」
「お前、頭数の意味分かってないだろ?」
「とにかく、わたしは合唱部なんて入らないからね」
頭を抱える阿修羅の横であくまでも冷淡に灯が言い放った。
「それに、掛け持ち無理だろ、ふつー」
「なんとかなるっしょー」
それでも全くめげないのが真湖流。
「ところでよ、翔にいとどんな約束したんだよ?」
阿修羅がさっき真湖が叫んでいた「約束」について尋ねた。
「うん。翔平にいちゃんが合唱部にいた時にね、全道大会まで行ったんだって。でも、全国には行けなかったって。だから、あたしが代わりに全国行くって約束したの」
「翔にいでも行けなかったの、お前でできるわけないじゃんよ」
「そんなこと、やってみなきゃ分からないじゃない?」
「お前、合唱舐めてるんじゃないか? さっきも言ったけどな、俺たちのチームだって、空知大会ではいいとこいくけど、全道になったら、全くレベルが違うんだぜ。全国なんて夢のまた夢なんだからな。大体、お前、その……NHKコンクールのこと、どんだけ知ってるんだよ」
さっきの真湖の言葉から察するに、ほとんど知らないことは承知だった。
「む……」
これにはさすがの真湖もぐうの音が出なかった。
「じゃあ、調べてく?」
ちょうど乃愛琉の家の前に着いたところで、乃愛琉が真湖にそう告げた。
「乃愛琉んとこ、パソコンあるんだっけ?」
「お兄ちゃんの使ってるのが居間にあるから。今だったらまだお兄ちゃん帰ってきてないはずだし」
「わたしは帰る。塾あるし」
灯だけ先に帰ることに。
「したっけ、明日な」
「ばいばーい」
「またね」
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