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「現在皇位継承権を持っているのは現皇帝・若明帝の一人息子月下宮皇子だ。月下宮の次の皇位継承権は我々の父である砂陽堂殿下にあったが砂陽堂の死で若明帝の従兄弟の籠陽堂に移っている。籠陽堂には一人娘しかいない。そしてこの一人娘が明星院家の血を引いている」
結果はそう言いながら絵図を描いていく。家系図らしかった。
「明星院家が王宮で強権を振るっているのは月下宮の母親が弱小貴族出の第四王妃だからだ。故に月下宮と籠陽堂の娘の婚姻を成立させようと双方がもくろんでいる。そうすれば政敵はいなくなる。月下宮は明星院家という強力な後ろ盾を得るし、明星院家は次代の皇帝を自分たちの血筋から輩出できる」
「明星院……」
男の胸に怒りがこみ上げる。
徒花の死をあざ笑い、自分を殺そうとした男。明星院和水。
「だがここでお前が名乗りを上げ、そして不慮の事故で月下宮が亡くなりでもすればお前は皇位継承権第一位に躍り出ることが出来るって寸法だ」
「……不慮の事故?」
「ああ。良い響きだよな不慮の事故。今回の徒花の死も不慮の事故ってことになってるだろうさ」
「……徒花」
その名に心は痛む。
「……それは徒花の望みか?」
「……いいや」
結果は真摯だった。
「徒花は君が平穏に生きることを望んでいたよ。牢で生きることこそ望んでいなかったが、別に皇帝になって欲しかったわけじゃない。これはただのあたしの復讐だ」
「君の……」
「物心つく前とはいえ、父が殺された。母も巻き込まれて死んだ。自分はかろうじて生き残ったはいいがこんなあばら家に暮らしている。兄も死にかけ、伯母は殺された。私は怒っているんだ、牢左」
哀しみは癒えたといった口で結果はそう言った。
「お前はどうだ? お前は許しているのか? お前は悲しんではいるのだろう。では怒ってはいないのか? 復讐と名乗りを上げる気はないか? 私といっしょに天下をひっくり返さないか?」
「……その気は、ない」
「むう」
結果は口をすぼめた。
「そうか。しょうがない。やる気のないやつの尻を叩いてもしょうがない」
「……でも、徒花の仇は取りたい」
「……そうか」
「それを君が手伝ってくれるというのなら、君の復讐を手伝おう」
「……いいだろう。最高だよ牢左」
結果はにやりと笑った。
「私とお前は今から共犯者だ。よろしくな」
結果は手を伸ばした。
男は戸惑った。
「……握手だよ。こうやって手と手を握り合うんだ」
結果は自分から男の手を握った。
「よろしく、牢左」
「……よろしく、結果」
それは牢左が徒花の他に呼んだ初めての名前だった。
妹の名前だった。
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