高層居住船の憂鬱

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 配管にしがみつき、登り棒の要領で下階へ降りる。この無意味な度胸試しを続けているのはいまや少女だけだ。最初にそれを始めた男の子達は、みんな陸に行ってしまった。そして、行方はそれっきり杳として知れない。  ベランダに転がる、潮風でボロボロになった三輪車。吹き抜けの柵ではためく布団や毛布。彼女は退屈している。ここはあまりに娯楽が乏しく、逃げ出すこともかなわない。  あらかじめ投げ落としておいた鞄を、ハマナスの植え込みから拾い上げる。上階から物を落とす行為は高層居住船の御法度だが、彼女はお構い無しだ。  私達全員が追い出されかねないのよ。  母も姉も、いつもそう言う──実際、今まで退去を命じられなかったのが不思議なくらいだ。  居住船で彼女が犯した悪戯は枚挙に暇がない。ドアに物を挟んでエレベーターを動かせなくしたこともあれば、着岸時以外は立ち入り禁止になる地下の駅区画に忍び込んだことだってある。
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