◆2

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

◆2

「お暇を頂きます」  翌日。前回の騒動で懲りたシャルロットは、ウェルテルに休暇願いを申し出ていた。 「えええ!! 困るよーーー!!」  大の大人が駄々をこね始めた。 「シャルロットがいなくなったら、私はどうやって生活をすればいいんだ!」  キリッっとした表情で決め台詞を言うウェルテルであるが、言っている内容はダメ人間のソレである。 「情けない! 食事ぐらい自分で作りなさい!!」 「やだーーー!」  ウェルテルが駄々をこねる。 「掃除も自分でしてください!!」 「前向きに検討するーーー!!」  シャルロットは、ここへ初めて助手として訪れた日のことを思い出していた。  ──ゴミ屋敷だった。研究所の廃墟といっても差し支えはなかっただろう。この研究所を、なんとか来客対応できる普通の物件に掃除したのは、このシャルロットなのだ!! しかしそんなシャルロットにも不満があった。 「私は錬金術師なんです!! 家政婦じゃないんですよ!!」  シャルロットが怒鳴る。 「私にも、錬金術の研究させてくださいよ!」 「だって……シャルロット君が研究を始めたら、私の世話はいったい誰がするっていうんだ!!」 「拾った猫みたいに言うな!! 自分の世話は自分でしろ!!」 「やだーーー!掃除したくないーーー!」 「それなら、別に家政婦雇ってくださいよ!」 「シャルロットがいないと生きていけない……」 「生きろ!!」  頼られて悪い気はしないが、シャルロットも今度という今度は本気である。 「とにかく、解毒剤が今すぐできないのなら、私はこの研究所を出ていきます」 「だからやめてー!! 帰ってきてー!! なんでもするからー!!」 「なんでもするって言いましたね」  シャルロットが、ずいっとウェルテルに詰め寄った。 「じゃあ、解毒剤、お願いしますね」 「くそー、人の弱みに付け込みやがって」  ぶつぶつとウェルテルが呟いた。 「博士の弱みが、私なんですか?」  あきれ顔で、シャルロットが呟いた。 「うん」  真面目な顔で頷いたウェルテルだったが、シャルロットはやれやれといった表情で、どこ吹く風だ。ウェルテルはがっかりしてため息をつくと、実験室にこもるべく階段を昇って行った。  そのとき、玄関のドアのベルが鳴り響いた。シャルロットは、なんだかデジャヴだな、と思いつつドアを開けた。  しかし、ドアの向こうには誰もいない。おかしい、とシャルロットは外に出て、辺りをじっくり眺めた。やはり誰もいない。いたずらだろうか?  シャルロットは諦めて、室内にもどった。……と、後ろからすさまじい音を立てて矢が飛んできた!  矢羽根はシャルロットの髪をかすり、戸棚に突き刺さった。先端に手紙が着いている。 「これは……矢文!?」  シャルロットは紙をほどくと、中の毛筆を読み上げた。達筆な字で、こう書いてある。 「『果たし状』」 「さて……ではお相手願おうか、シャルロット嬢」 天井から現れたのは、一人の忍者だった。 「なぜ私の名を……!?」  シャルロットは驚いて後ずさる。 「私はシノビの一族。孤島の錬金術師、ウェルテル様の周りを調べることなど、たやすい」  さっそうと現れたくのいちは、淡々と説明を始める。 「シャルロット・ワールハイム……。2年前にこの研究所に勤め始めたな。当時、ゴミ屋敷だったこの屋敷をここまで掃除をするとは、その掃除婦の手腕、見事と言わざるを得ない」 「掃除婦じゃなくて錬金術師なんですけど……」 「さらに、生活能力が0どころか、マイナス53万に吹っ切れている、ウェルテル様の身の回りを世話しているそうだな。素晴らしい家政婦だ」 「だから、私は家政婦じゃなくって。錬金術と研究の助手です……」  シャルロットはがっかりと肩を落とした。はたからもそう見えているのか。 「そうやって、ウェルテル博士に取り入ろうとしているのだろう」 「何を言っているんですか」 「街の騒ぎを知っているか」  くのいちは語り始める。 「ウェルテル様の人気は増すばかり。ファンクラブや、親衛隊ができる始末だ。」 「ええ………街の方、そんなことになってるの……?」  シャルロットはげっそりとした。 「そして、私もその一人!具体的に言うと、ファンクラブ会員No.102!!」  くのいちがクナイを構えた。 「正妻の命を奪い、私が後釜を取る!お命頂戴!」 「えっ ちょっと待って どこから突っ込めばいいない」  シャルロットが突っ込んだ。 「まず、私は正妻じゃなくてただの助しゅ、ギャーーー!!」  手裏剣がビシバシと飛んできたのでたので、シャルロットは慌てて退避した。またこのパターンかよ!!  シャルロットは必死に手裏剣をよけて、壁に張り付いた。そして、天井から吊り下げられているロープに手を伸ばす。  このロープは、侵入者排除用のトラップ発動のスイッチなのだ。これを引っ張れば、研究所に穴が開き、侵入者を排除する。  が、シャルロットがそのロープを引っ張ることはできなかった。代わりに、後ろから飛んできた手裏剣が、その隣のロープをぶちぎったのだ。  まずい。  研究所のホールに、ぽっかりと穴が開く。当然、そこにいるくのいちと、シャルロットは、地面の支えを失う。  かくして、侵入者くのいちと、シャルロットは仲良く地面の穴へと落ちていった。 「ギャーーー!!」 「ウェルテル様、お慕い申しておりますーーー!!」  二人の悲鳴が、こだまして消えた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!