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◆2
「お暇を頂きます」
翌日。前回の騒動で懲りたシャルロットは、ウェルテルに休暇願いを申し出ていた。
「えええ!! 困るよーーー!!」
大の大人が駄々をこね始めた。
「シャルロットがいなくなったら、私はどうやって生活をすればいいんだ!」
キリッっとした表情で決め台詞を言うウェルテルであるが、言っている内容はダメ人間のソレである。
「情けない! 食事ぐらい自分で作りなさい!!」
「やだーーー!」
ウェルテルが駄々をこねる。
「掃除も自分でしてください!!」
「前向きに検討するーーー!!」
シャルロットは、ここへ初めて助手として訪れた日のことを思い出していた。
──ゴミ屋敷だった。研究所の廃墟といっても差し支えはなかっただろう。この研究所を、なんとか来客対応できる普通の物件に掃除したのは、このシャルロットなのだ!! しかしそんなシャルロットにも不満があった。
「私は錬金術師なんです!! 家政婦じゃないんですよ!!」
シャルロットが怒鳴る。
「私にも、錬金術の研究させてくださいよ!」
「だって……シャルロット君が研究を始めたら、私の世話はいったい誰がするっていうんだ!!」
「拾った猫みたいに言うな!! 自分の世話は自分でしろ!!」
「やだーーー!掃除したくないーーー!」
「それなら、別に家政婦雇ってくださいよ!」
「シャルロットがいないと生きていけない……」
「生きろ!!」
頼られて悪い気はしないが、シャルロットも今度という今度は本気である。
「とにかく、解毒剤が今すぐできないのなら、私はこの研究所を出ていきます」
「だからやめてー!! 帰ってきてー!! なんでもするからー!!」
「なんでもするって言いましたね」
シャルロットが、ずいっとウェルテルに詰め寄った。
「じゃあ、解毒剤、お願いしますね」
「くそー、人の弱みに付け込みやがって」
ぶつぶつとウェルテルが呟いた。
「博士の弱みが、私なんですか?」
あきれ顔で、シャルロットが呟いた。
「うん」
真面目な顔で頷いたウェルテルだったが、シャルロットはやれやれといった表情で、どこ吹く風だ。ウェルテルはがっかりしてため息をつくと、実験室にこもるべく階段を昇って行った。
そのとき、玄関のドアのベルが鳴り響いた。シャルロットは、なんだかデジャヴだな、と思いつつドアを開けた。
しかし、ドアの向こうには誰もいない。おかしい、とシャルロットは外に出て、辺りをじっくり眺めた。やはり誰もいない。いたずらだろうか?
シャルロットは諦めて、室内にもどった。……と、後ろからすさまじい音を立てて矢が飛んできた!
矢羽根はシャルロットの髪をかすり、戸棚に突き刺さった。先端に手紙が着いている。
「これは……矢文!?」
シャルロットは紙をほどくと、中の毛筆を読み上げた。達筆な字で、こう書いてある。
「『果たし状』」
「さて……ではお相手願おうか、シャルロット嬢」
天井から現れたのは、一人の忍者だった。
「なぜ私の名を……!?」
シャルロットは驚いて後ずさる。
「私はシノビの一族。孤島の錬金術師、ウェルテル様の周りを調べることなど、たやすい」
さっそうと現れたくのいちは、淡々と説明を始める。
「シャルロット・ワールハイム……。2年前にこの研究所に勤め始めたな。当時、ゴミ屋敷だったこの屋敷をここまで掃除をするとは、その掃除婦の手腕、見事と言わざるを得ない」
「掃除婦じゃなくて錬金術師なんですけど……」
「さらに、生活能力が0どころか、マイナス53万に吹っ切れている、ウェルテル様の身の回りを世話しているそうだな。素晴らしい家政婦だ」
「だから、私は家政婦じゃなくって。錬金術と研究の助手です……」
シャルロットはがっかりと肩を落とした。はたからもそう見えているのか。
「そうやって、ウェルテル博士に取り入ろうとしているのだろう」
「何を言っているんですか」
「街の騒ぎを知っているか」
くのいちは語り始める。
「ウェルテル様の人気は増すばかり。ファンクラブや、親衛隊ができる始末だ。」
「ええ………街の方、そんなことになってるの……?」
シャルロットはげっそりとした。
「そして、私もその一人!具体的に言うと、ファンクラブ会員No.102!!」
くのいちがクナイを構えた。
「正妻の命を奪い、私が後釜を取る!お命頂戴!」
「えっ ちょっと待って どこから突っ込めばいいない」
シャルロットが突っ込んだ。
「まず、私は正妻じゃなくてただの助しゅ、ギャーーー!!」
手裏剣がビシバシと飛んできたのでたので、シャルロットは慌てて退避した。またこのパターンかよ!!
シャルロットは必死に手裏剣をよけて、壁に張り付いた。そして、天井から吊り下げられているロープに手を伸ばす。
このロープは、侵入者排除用のトラップ発動のスイッチなのだ。これを引っ張れば、研究所に穴が開き、侵入者を排除する。
が、シャルロットがそのロープを引っ張ることはできなかった。代わりに、後ろから飛んできた手裏剣が、その隣のロープをぶちぎったのだ。
まずい。
研究所のホールに、ぽっかりと穴が開く。当然、そこにいるくのいちと、シャルロットは、地面の支えを失う。
かくして、侵入者くのいちと、シャルロットは仲良く地面の穴へと落ちていった。
「ギャーーー!!」
「ウェルテル様、お慕い申しておりますーーー!!」
二人の悲鳴が、こだまして消えた。
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