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小走りで傘を差す、女性の姿が店舗ガラス越しに見えた。一人目の客は、傘立てに傘を置きかける。洒落たデザインで、地味な色のスーツを、ずぶ濡れにしながら入店する。
「いらっしゃいませ」
「おはようございます。店長さん、レインコートどこですか?」
「こちらになります」
店長はカウンターを早足ですり抜け、レインコートの前に立つ。女性客は二十個数えて、急いでレジに向う。店長が後を追いかける形になった。
「ありがとうございます、二十個で二千百六十円です」
「領収書ください、名前はこちらで」
ほかの客がいなか、気にしながら、きょろきょろ目が泳ぐ。濡れた手のまま、名刺をカウンターに突き出す。名刺には、北登自動車のディーラー店舗名が印字されている。
「いつもありがとうございます」
深く頭を下げてから、店長が領収書を切り渡す。領収書と、レインコートで膨らんだビニール袋を抱えた。外に出て、雨に打たれながら傘をさす。靴が水飛沫を上げながら、一目散に戻って行く。アスファルトの駐車場には、激しい雨が多くの波紋を作っては、消えている。
「北登さんの従業員さんも、雨では大変ですね」
店長は爪先立ちになり、雨が打つ窓ガラスを覗く。北登自動車のディーラー従業員が、男女問わず、レインコートを羽織り、車を奥に誘導していた。
運転席の窓ガラスを開け、文句を言いたげな顔が見える。さっきの女性が、頬に雨の雫を滴らせながら、ぺこぺこしていた。
傘をたたみ、水滴を床に零しながら、中年の女性が店に入ってくる。
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