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「そっか……それで……あいつは何なんだ?容姿が君にすごく似ていた」
「あいつは……たぶんもう一人の私。私にもどうしてこうなったのか分からないけど……死んだら殺意は無くなったって言ったでしょ。きっと私の抜け落ちた殺意があいつなんだと思う」
抜け落ちた殺意……か。間近で見た純粋な殺しを欲する目が思い出される。しかし黒いルナは殺意だけではなかったようにナオキは思えていた。
「言っておくべきだったのかもしれないけど、自分と同じ姿の霊が敵だなんて言いづらかったし急いでたし、できれば遭遇しないことを祈ってた。でもダメだったみたいね。確実にあなたを標的にしてる……」
「ああ……ありがとう」
最後に包帯はギュッと結ばれて手当は終わった。血は勢いを失ってきているがまだ痛みは健在だった。手の平は血でべたつくし、右手はほとんど使い物にならないだろう。
「でも、5階までは来れた……あと三つ上に行けばゴールなんだよね?」
「うん。この部屋はドアが二重になってるし、そこのハッチを開ければ下に降りることもできる。だから休めるとは思うけど、落ち着いたなら早く動いたほうがいいかもね。」
ルナがそう言った後、ナオキはルナの目を見て頷いて、立ち上がった。懐中電灯を拾い上げて照らした室内は大事そうに守られている部屋なのに物が少なくて寂しい。
廊下にクロビトはいるのだろうかとドアに近づき耳を澄ます。……足音や気配はない……けど、何だ……どこからか笛を吹く音?……が聞こえてきている。
笛……この場所でそれを持つのは一人。場の空気にはあまりにも似つかわしくないかわいらしい音色だった。歯切れのよい軽快なリズムで高い音はまるでスキップをしているように響いていて――こちらに近づいてきている――。
――止まった?
音が止まった場所ドアの外側ではないように聞こえたナオキはドアノブに手をかけて、次の瞬間。天井から大きな音がした。
恐る恐る真上の天井を照らすとひびが入っていて、後ろに身を引けば、瓦礫と共に黒いルナが降ってきた.
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