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第四十一話 じっとして
体の横を通り過ぎる絹のように透き通る肌をした手、4のボタンを舐めるように押す。
ナオキの頭に「GAME OVER」がよぎる。赤く汚れた文字で……。
黒ルナはすぐには襲ってこない――喉だけで笑っていた。手にはいつの間にかガラスが刺さった凶器の笛があって――振り回されれば避けるスペースはない。
ナオキはまずエレベーターの行き先を変えられないか試みた。4のボタンを二回押してみたり、8のボタンをもう一度連打してみた。……望む結果は得られず、次の行動に出る。
左手で黒ルナが持つ笛を奪い取ろうと掴んだ。利き手ではない左手で黒ルナが握っている部分のすぐ下を掴み、引きはがそうと、ねじりながら、力を込める。しかし、黒ルナの手が前に伸び切るところまで引いてもナオキの手に笛は渡らなかった。
黒ルナの手は肘も曲がっていないほど脱力されていてナオキが手を離せばすぐに地面に伸びるような状態だった。にも関わらず、笛が手の一部になっているようで緩急をつけながらどれだけ引いても、摩擦で手の平が痛むだけだった。
これだけ引っ張っているのに直膣したまま一歩も動かないのもおかしい。人間の力では……
「じっとして」
黒ルナがそう言うと、体が瞬間冷凍されたように固まり、脳が指示していないのに背骨から体が動かなくなっていく。骨が鉄の棒に入れ替えられたみたいで、どうしても言うことを聞かない。
これが噂に聞く金縛り……
頭にだけ、感覚が残っていて視覚と聴覚ははっきりとしていた。何度も何度も体を動かそうと、声を張り上げようとしても、見えない壁に阻まれる。
黒ルナがナオキの首に手を伸ばして、息が止まっているのか、胸が苦しくなってきたナオキはついに目を閉じた――
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