29人が本棚に入れています
本棚に追加
「…………そん……な」
金色の髪の女は完全に脳に意識を集中させて、表情を作る筋肉が動きを止めた。
自然な状態になった顔の中で目と口だけが大きく開いてその状態で止まっている。
ナオキは眉間に皺を寄せた。もう言ってしまったので後悔しても遅いがここで立ち止まるくらいならこんなこと聞かないほうが良かったか。とにかく、ルナという女にとってあの写真が重要な何かであることは間違いなさそうだ。
「いや……違う……そう、あれは何でもないの。止まってごめんなさい。進みましょう」
金色の髪の女が言い終わると下の階から何かがもぞもぞとうごめいているような不愉快な感触が届いた。まだ下ではクロビトが走り回っているのかもしれない。
早くここから出てしまおう、話の続きはそれからだ――。
かなり走って階段を何段も上ったので足にもかなり疲労が溜まっている。ここを出たらまずは寝転んで思い切り足を伸ばしたい。
地面を踏む度にその振動で痛むふくらはぎ、三番目の部屋ではかなり体を消耗してしまった。部屋……やはりこの空間についてもっと知っておく必要がある。一つだけ雰囲気が違う八階の廊下にあるドアを一つでも開けてみたいところだが……。部屋に入る前にあったナオキの万能感は尽きて枯れてしまっていた。
あれは……あのドアは……
「見えた。あれがあなたの出口でしょ……」
「うん……。良かった!行こう」
ここでは何度か死んだと思ったが何とかなった。白いドアが廊下の奥に見えたナオキは重い足を浮かせて金色の髪の女を追い越して走った。
これでやっと落ち着ける。生きてる――
ドアノブに手をかけるナオキ。それと同時にナオキの腰にするりと白い腕がまきつく。
首だけで見る後ろにいる金色の髪の女はまだ白い服を着ていた。頭も自分の背中にくっつけていて末広がりの金色は行動の理由を語ってくれない。
「さあ……出ようよ」
ナオキはドアのほうへ向きなおして言った。
――自分の心臓の鼓動が大きくなっているのが分かる。どう出る……?
最初のコメントを投稿しよう!