第四十三話 丑

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「キィィィィィィィィィィィィィャヤあああああああああああああああああああ」  黒ルナがルナの背中に触れると、聞いたことのない音が大音量で発せられた。きっとそれは死を迎える時の声。断末魔。  触れた場所から黒と白が混ざり合っていく。指先から溶けていく黒ルナの両腕がルナが面を上げた。  白目をむいて一息もつかず叫び続ける顔が、焼け焦げていくように真っ黒に変わっていっている――  もう……もうやめてくれ。もうたくさんだ。  ナオキはドアノブをガチャガチャと言わせながら、もがいていた。水中から溺れた我が身を助け出すように両手をドアの向こうへ伸ばし足をバタつかせる。  脱出が叶わないまま叫び声が終わると、自分の腰回りにある手が首に向かって伸びてくる――首の下を黒い手に掴まれたナオキはそれに対応するためにドアノブから手を離してしまった。  しかし、片方の腕が腰から外れたことにより隙ができていた。自由がある右半身から体を回転させて逃れようとするナオキ。それをさせまいとするクロビトは瞬間的に握る力を強くして止めた。  開いたドアの前、クロビトはナオキの首と腰を掴み、ナオキは自分の首を絞める手を掴んだまま互いに動きが止まる。  すごい力……このっ、離せ……  自分の体が持ち上がりそうなほどに首に圧をかけられていて、首の根元にあるクロビトの親指は鎖骨の内側にめり込んでいる。それをどうにか剥がそうにも掴むのも難しかった。  やばい……どうしてこうなった……やばいやばいやばいやばい……くる……しい  頭への血の巡りの少なさが限界に達していたナオキにさらなる絶望が畳み掛ける。下で聞こえていた無数の足音がすぐそこまで近づいていて、視界の奥から大量のクロビトが走ってきている。そしてその先頭には……  あ……れ…………?  シロビトの姿がそこにはあった。消えかける意識の中、らくがきのような白い手にも掴まれる。そして目の前が真っ暗になるとともにドアが閉まる音がした。
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